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スミノフのめいぽでいろいろ

管理人自作の小説を中心とした、メイプルストーリーにまつわるいろいろを書いたブログです

スミノフ

職:シャドー
Lv:162
サーバー:けやき
April 13

ボリス in maple 第17話

 実録 ショーワ戦争 その1 ゆかだんぼーVS火狸金融

 「あ゛ーっ! 思い出しただけでも腹が立つわ!」

 あやめが足裏に怒りを込めてドスドスと歩く。

 「とにかく疲れた。風呂に入って頭空っぽにしてぇ」

 ウーゴは体をを引きずるようにしてとぼとぼと歩く。 

 まったくだよウーゴさん、ひどい目に遭ったよね。

 ボリスが歩きながら心の中で相槌を打つ。

 ステラはじっと押し黙り、テレポを使い点滅するようにして前へ進む。

 向かう先はショーワ町の銭湯。

 悪徳ギルド『独占禁止組合』に狩場を横取りされてしまい、四人の心は、徒労感と怒りをミキサーにかけたようなモヤモヤした感情でいっぱいだった。 

 熱い湯に浸かってそのモヤモヤを解消したい、そう思うのも無理からぬことである。

 そんな四人がショーワ裏通り3に差しかかった時……

 「火狸金融ですー。御来店お待ちしとりますー」

 ボリスの耳に野太い男の関西弁が滑り込む。

 見ると、ガラの悪そうな男達が数人、道行く人にティッシュを配っていた。

 ボリスは反射的に、黒地に白いピンストライプ柄のスーツを着た男からティッシュを受け取ると、機械的にポケットの中へねじ込んだ。

 そのままボリスと仲間達は、男に何ら関心を示すこともなく通り過ぎていく。

 「よぉ、兄ちゃん、人が頭下げて御利用をお願いしとるちゅうに、何やその態度は!」

 スーツの男がボリスの後ろから強引に肩をつかんで引き止めた。

 「いえ、特にお金借りる用事も無いものですから……。あ、あなた方に悪意があるわけではないですよ」

 思いもつかない口実で因縁をつけられ、ボリスは戸惑い気味に答える。

 「ワイらが悪意を持っとるやと? われケンカ売っとるんけ!」

 ボリスの言葉を勝手に勘違いした男は、こめかみに青筋立てて逆上した。

 「ワイは今月の貸付目標額を達成するために営業しとるだけや。せや、えぇこと思いついたで。ワイに言い掛かり付けたことへの慰謝料代わりに、われ、うちの店から20万メル借りや!」

 は? 今何とのたまいました? 慰謝料代わりに借金しろって? なんでそうなる?

 すごむ男に胸ぐらをつかまれ、ボリスは完全にテンパっていた。

 「聞いとるんか? コラ!」

 男は、狐につままれたような顔をしているボリスをさらに揺さぶる。

 「ちょっと! ボリさんから手ぇ離しなさいよ! ボリさんもきっぱり断んないからこうなるのよ! んもぅ、しゃんとしなさいよしゃんと!」

 見かねたあやめがぴしゃりと言い放った。独占禁止組合との一件のせいもあって、いつもよりとげとげしい。

 「姉ちゃん、このヘタレ斬り賊の連れけ?」 

 「そーよ。あたし達これからショーワの銭湯に行くんだから、邪魔しないで!」

 「風呂ならワイがえぇとこ教えたるで。うちのチェーン店や。姉ちゃんスタイルえぇさかい、常連客がぎょうさんついてたちまち売れっ子泡姫や」

 男はやに下がった目つきでねっとりとあやめを睨め回す。

 何? まさかお風呂ってソープのこと? やだ、キモいからそんなスケベ目で見ないでよ!

 思わず後じさるあやめ。

 しかし男はさらに間合いを詰めてくる。

 「ちょっ、何すんのよ、離れてよ!」

 あやめは男から逃れようと身をよじる。その拍子に、あやめの弩が男の体に軽く接触した。

 しかし意外にも、男の体は後ろにのけぞり宙を舞う。

 そのまま三、四メートル先の電柱まで飛んで行った。

 ビターン! ベチッ!

 骨とコンクリートがぶつかる嫌な音が辺りに響き渡る。

 何でこんなに派手に飛んじゃうの? 弩にコツンと当たっただけなのに? どうして?

 もう訳がわからずおろおろするばかりのあやめ。

 まさかこれは……

 ウーゴはひとつの可能性に思い至った。 すかさずあやめに確認を促す。

 「あやめ、もしかしてパワーノックバックにスキルポイント振ってるんじゃないか? スキルブック確認してみろ」

 えと、ええと……

 あやめは慌てて荷物の中からスキルブックを取り出しページをめくる。

 「あ、ほんとだ。1だけポイント振ってある。いつ振ったんだろう……」

 原因はわかったものの、あやめの気持ちはすっきりしない。

 よりによってこんな時に発動しちゃうなんて……

 あやめの顔がヒクヒクと引きつり始めた。

 一方、飛ばされた男の周りには、いつの間にか、黒服姿のコワモテや腹巻姿のチンピラが数人集まっている。

 どうやらスーツ男の手下らしい。

 チンピラ達は敵意むき出しであやめをギリギリと睨みつける。

 われ、幹部Bさんをど突いたゆーことがどないな事か、わかっとるんやろうな!

 このオトシマエ、どないするつもりや!

 ケツの穴から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わしたろか!

 男達が畳み掛けるようにしてあやめに怒号を浴びせる。

 「なんか、殺気がビンビン伝わってくるんですけど……」

 仲間達にすがるような視線を送るあやめ。

 「そうですわね。サッキ監督の殺気と同じくらい強烈ですわ……」

 ステラの声もわずかに震える。

 サッキ監督の殺気……っておい、そのダジャレはサッカーファンにしか通じないよ。

 ボリスがつっこもうとしたその時――

 「いてもうたれ――――っ!」

 幹部Bが拳銃を発砲した。弾は一番近くにいたあやめの左腕をかする。

 その場にうずくまるあやめ。

 ボリス、ウーゴ、ステラがあやめに駆け寄る。  

 手下共も怒涛の勢いであやめに突進。

 あやめを助けるために両手がふさがり、ボリス達はうまく攻撃を仕掛けられない。

 たちまち両者入り乱れてラグビーのモールのような状態になった。

 ステラに至ってはマジックガードをかける間もなく敵に囲まれたため、墓落ちの恐怖で混乱して逃げることも攻めることもできないでいる。

 わたくし……もうだめ……

 ステラが諦めかけた時――

 「ファイアーアロー!」

 ちょんまげに和服姿の男が、ペットの象を連れて現れた。炎の形をした矢を幹部Bと手下達に打ち込む。

 あぢっ、あぢーっ!

 手下は背中を炎に焼かれバタバタと倒れていった。

 幹部Bはすぐに地面にもんどりうってどうにか火を消したが、背中からはまだ煙が立ち上っている。

 「あんた、背中がすすけてるぜ」

 言うとちょんまげ男は幹部Bを見下ろしながら不敵な笑みを浮かべた。

 「おどれが魔法でやったんやないけ! ちゅうかだれじゃワレ!」

 幹部Bは起き上がると、背中を押さえながらちょんまげ男に向き直った。

 「あっしの名前はゆかだんぼー、しがない流れ者でさぁ」

 ニヒルに名乗るちょんまげ男。さらに続ける。

 「自分からケンカ売っておきながら、慰謝料代わりに金を借りろとは笑わせる。おいたするガキにはお灸を据えないとな」

 「お灸どころか、危なく丸焼きにされるところだったやないけ! 耳デカのゾウみたいにけったいな名前しよってからに……はっ、まさかワレ……焼きのゾウ!」

 ゆかだんぼーの素性に思いあたるところがあったのだろう。幹部Bの顔がまたたく間に恐怖で歪む。

 「その二つ名を知っているなら話が早い。無駄な抵抗は止めろ」

 「じゃかぁしぃっ! 火狸金融の構成員ばかりを狙ってヤキ入れてるそうやないけ。弟分らの敵、ここで討ったる!」

 幹部Bはゆかだんぼーに拳銃を向けた。しかしその足はガクガクと情けなく震えている。

 「あんたの背中には一人の命もしょえない。やめなよ極道は」

 ゆかだんぼーは幹部Bの醜態を鼻で笑うと、伝説の雀士そっくりのセリフで言い捨てた。

 「けっ、その余裕、いつまで続くかのぉ……親分! こちらです!」

 幹部Bは急に『してやったり』の表情を見せると、ゆかだんぼーとボリス達の背後に向かって大きく手を振り始めた。

 ボリス達が振り向くと、黒いリムジンが一台、猛スピードでこちら目掛けて突っ込んでくる。

 「やばい、早く逃げるんだ!」

 ゆかだんぼーが叫んだものの、その警告は間に合わなかった。

 リムジンはボリス達五人の前で急停車。

 中から和服姿で白髪の男が出てきてボリス達五人にぶつかる。

 「え、なに? 何かポマード臭いんですけど。おごぉうわーっ!」

 何が起こったのかわからないまま親分と思しき男にタックルされ、ボリスの意識はホワイトアウト。

 ピュ~ッ ドーン

 接触ダメージのみであっという間にボリスも他の四人も墓落ちしてしまった。

 

 意識を取り戻したボリスが最初に見たのは、 四角い顔をした老人だった。

 ボリスは上体を起こそうとした。とたんに激痛が走る。

 「おっと、まだ起きちゃいけねぇ」

 老人がボリスの胸を軽く抑えて押しとどめた。

 「みんなは……僕の連れはどこですか?」

 「安心しな。みんな無事だ」

 老人が振り向いた先をボリスが目で追う。

 あやめ、ウーゴ、ステラ、ゆかだんぼーがこちらの様子を心配そうに伺っていた。

 ボリさん! ボリスさん!

 仲間達が安堵のあまりボリスの名を絶叫する。しかし彼らも全身傷だらけだ。

 「ここはどこですか?」

 「ショーワ町だ。そしてこの家はわしの自宅兼店舗になっている」

 「あなたは?」

 「わしの名はシンタ。ここの武器屋の主人で、きのこ神社の露店を取り仕切るテキ屋の親分でさぁ」

 矢継ぎ早に尋ねるボリスに老人はハスキーボイスで答えた。

 「話はゆかだんぼーから大方聞いている。わしが不甲斐無いばっかりに、関係のないあんたにも迷惑をかけてしまった。このとおりだ」

 シンタはボリスの枕元で正座してひざの上に拳を置き、深々と頭を下げる。

 「すみません、その…… あなたがなぜ謝っているのかが良くわからないもので、事情を説明して頂けないでしょうか?」 

 ボリスは戸惑いながらも、慎重に言葉を選んで再びシンタに尋ねる。

 シンタは訥々と語り始めた。

 ――シンタはきのこ神社界隈のみならず、かつてはショーワ町をもなわばりにしていた任侠一家の親分なのだという。

 ところが数年前から、火狸金融がショーワ町にアジトを構えて、シンタ一家のシマを荒らしまわっているのだそうだ。

 しかもシンタの子分筋の者の中には、シンタを裏切って火狸金融やGMの手先になっている輩がいるらしい。

 さらにこの頃、火狸金融の連中は、何の関わりも無い冒険者にいきなり絡んできては墓落ちさせるようになった。

 それでシンタは、冒険者の皆さんへのせめてもの償いのつもりで、きのこ神社に露店を出し、割安な値段で冒険者の皆さんに回復薬を提供している、とのことだった。

 「……わしにも意地がある。このまま火狸金融の好き勝手にはさせやせん」

 そう話を締めくくったシンタは、話の最中身じろぎ一つしなかった。

 「シンタ親分、あっしも付いてます。河童にフクロにされて瀕死のあっしを、客分として迎えて頂いた親分のご恩と義理に今こそ報いる時。火狸金融の腐れ外道どもを必ずこの町から追い出しましょう」

 ゆかだんぼーは言うと自分の手をシンタの握りこぶしに添えた。

 「おんどれこそ、ほんまもんの男や」

 シンタは使い慣れていない関西弁で言うと、目からうっすらと涙をにじませてゆかだんぼーの手を握り返す。

 「あっしはオンドルではありません。ゆかだんぼーです」

 照れながら答えるゆかだんぼー。さながら健さんの仁侠映画みたいな光景だ。

 なるほど……そういうことか。

 でも、シンタさんが謝るようなことじゃないですよ。

 ボリスがシンタを慰めようと痛みをこらえて上体を起こした時、誰かがボリスの服を後ろから引っ張った。

 「あたしダメ……こういう話に弱くて……グスッ、涙が止まらないじゃない」

 見るとあやめはおよよと泣きながら盛大に鼻をかんでいる。

 「おんどれはオンドルじゃなくて床暖房……これいけますわ……」

 一方ステラは黒革の手帳をを取り出し、メモを取りながら感動にむせび泣いていた。ダジャレを思いつきネタ帳に書きとめているようだ。

 手帳のチョイスといいネタのセンスといい、ダジャレが絡むとほんとオヤジだよな……普段は清楚そのものなのに……

 ボリスが、この人よくわからんと言いたげにステラを見やった時―― 

 「みんな、ここでシンタさん達を見て見ぬ振りをするのは、人としてどうかと思うわ。あたし達もシンタ一家に味方して、火狸金融をぶっ潰すのよ!」

 あやめががばっと立ち上がり、新調した弩、ローアを天井にかざして檄を飛ばした。

 「姉さん、やってくれるのかい?! 捨てる神あれば拾う神あり。渡世の仁義はまだすたれちゃぁいなかった。あやめさん……だったな。このシンタ、力の及ぶ限り、お前さん達を客分として面倒見させてもらうぜ!」

 「任せてください!」

 あやめは大きな胸元をドンと叩き、シンタに大きく頷いて見せた。

 「ちょっとあやめさん、渡世の仁義をよく分かっていない素人の僕らが、安請け合いしたらまずいんじゃないの?」

 ボリスが小声であやめを小突く。

 何せ相手はその筋の人なのだ。ボリスがそう言うのも無理はない。

 「ボリさん、火狸金融を潰す前にあたしの顔を潰す気? そうやっていつも理詰めでちまちまとした根性してるから、破産ぐらいでびびっちゃうのよ。 あっそう、あたしに反対だって言うなら、ボリさんにフリマで稼ぐ必勝法教えるのやめちゃおっかな~」

 あやめはボリスの弱みを的確に突いてジト目でささやいた。

 「ステラさん、ウーゴさんも何とか言ってくださいよ」

 たまらずボリスは仲間に応援を要請する。

 「わたくしはあやめさんに賛成です。あんなキレのあるダジャレを思いつく人に、悪い人などいるはずがありませんわ」

 「ボリスさん、諦めるんだな。いくら俺がチョイ悪だといっても、この強力女性陣を敵に回す勇気はねーよ」

 しかしステラとウーゴは、思いもつかないような理由であやめに賛成した。

 なんでそうなるわけ? でも、あやめさんに逆らうと破産だし……

 仲間の言い分にはとてもじゃないけど納得できなかったが、ボンビーなボリスは渋々賛成するより他なかった。

 後に、このシンタ一家と火狸金融との小競り合いは、多くの冒険者を巻き込み、姉御の張り手による冒険者虐殺事件や、さらには火狸金融のボス、大親分への爆撃事件にまでにまで発展することになるのだが――

 今のボリス達にはそれを知る由もなかった。

April 03

ボリス in maple 第16話

 ビンボーが、みんなビンボーが悪いんです! ボンビー! 

 所持金は11万メル……ここで黒字を出せなければ……

 破産だ。

 ジパング・きのこ神社のラーメン屋前に立ちつくすボリス。その体はわずかに震え、目はアイテムウィンドウのメル欄と、店の外壁に書かれてある塩ラーメンの値段の間を行ったり来たりしている。

 リュフトとエマの手ほどきを受けルディクエデビューを果たして以後、ボリスは最強に近づくために、あやめ、ウーゴ、ステラと共に1chエオス塔101階に通い詰め、ルディクエをやりまくった。

 仲間達が休憩のため一時的にルディクエから離れた後も、ボリスは一人でエオス塔101階に残った。空きができたパーティーに入れてもらい、ひたすらレベ上げに徹してきた。

 友達の輪を広げ、火力が一人足りない、パーティーに入ってくれと泣きつかれれば何を差し置いても参加した。

 そしてついに昨日、あやめ、ウーゴ、ステラと四人揃って51レベになってルディクエを卒業したまでは良かったのだが……。

 今度は経済危機である。

 せっかくみんなでお化けちょうちん狩りに来たのに、こんな所で、こんな理由で、冒険者としてのキャリアを終えたくない。僕は、僕は、あの斬り賊さんのように最強になりたいのに……

 

 しかし、そんなボリスとは対象的に、あやめ、ウーゴ、ステラの三人はすっかり御のぼりさんになっていた。

 「なあなあ、これ見てくれよ。ルディクエ卒業記念で、思い切って新調したんだ」

 ウーゴはホクホク顔でそう言うと、深い青色の弓、オリムポスをあやめとステラの目の前にかざして見せた。 

 「わたくしもMTSで思わぬ掘り出し物を見つけたので、珍しく即決で手に入れましたわ」

 「あたしも新しいの買ったよ! ね~ね~みんなでおニューの武器持ったとこスクショに撮ろうよ~」

 ステラもおろしたての武器を手に得意満面だ。あやめは懐からデジカメを取り出し、ウーゴとステラに向けて構えている。

 「ボリさんは新しいの買ったの? ボリさんも一緒に写ろう~」

 あやめが今度はボリスにカメラを向けて促した。

 いなせな江戸っ子のあやめは『さしすせそ』と『しおひがり』を早口で言うのが苦手なので、『ボリスさん』と言っているつもりでも、気がつくと『ボリさん』と発音している。

 いつの頃からか、『ボリさん』がすっかりデフォルトになり今に至るというわけなのだ。

 しかし、未だ『ボリさん』の表情は暗かった。3人の新しい武器をチラ視したかと思うと、すぐさま塩ラーメン500メルと書かれてある部分に視線を戻し、はぁ~っ、と情けなくため息をついてしまう。

 「実は、全財産合わせても11万メルしかないんだ。これからここで塩ラーメンと串おでんを買うのに10万メル消えるから……このちょうちん狩りで黒字が出せないと、確実に破産する」

 少々ためらった後、ボリスは意を決して、仲間達に深刻な現状を打ち明けた。

 あやめもウーゴもステラも、一瞬自分の耳を疑う。

 グル狩りの時だって、ボリスさんチマチマとメル拾ってたよな?

 ボリさん、ルディクエのボーナスステージでも回復薬とメル拾いまくってて、そばで見てても恥ずかしいくらいだったじゃない――――

 仲間達の脳内でボリスのセコい習性がリプレイされる。そんなボリスが破産寸前なんて、ある意味リーマンショック以上の衝撃だ。

 「ごめん。つまんない話をしちゃったね。塩ラーメンと串おでん買ってくるから、ちょっと待ってて」

 ボリスは申し訳なさそうにして話を打ち切ると、とぼとぼとラーメン屋の店内に入っていった。

 人混みに飲み込まれるボリス。かける言葉が思い浮かばず硬直するあやめ達三人。 

 「あやめ、確かにルディクエ三昧で狩りしてないとメル減ってくるけど、破産まで行っちゃうものなのか? 俺は疲れると早めにルディクエ抜けて一人でチャリクエしてたから、良くわかんなくてよ」

  「あたしはルディクエの赤字をフリマの売上で埋めてたんだけど、仮にフリマをやらなかったとしても、破産までいくような事は無いと思うのよね。それが何でまた破産なんて……」

 重い空気に耐えかねて口を開くウーゴに呼応して、あやめも一息で不安を吐き出す。

 「理由は簡単です。これが斬り賊の宿命だからですわ」

 息を整えてステラが静かに力強く、二人の疑問に答えた。

 『宿命』という重い響きにとまどうあやめとウーゴ。

 その様子を見て、ステラは真顔で話し始める。 

 ――斬り賊が常に接近戦を強いられるにもかかわらず、最大HPが弓弩職と同じぐらいしかないこと。その為に敵との接触が多く他職以上にHP回復薬を大量消費すること。さらに、斬り賊が二次職の段階では、敵の動きを封じる気絶効果付きのスキルを使えないことを。

 「でも、40レベぐらいまでボリスさん投げてたよな? 接触ダメ食らわないように手裏剣使えばいいんじゃねーの?」

  間髪入れずにウーゴが鋭いところを突いてくる。 しかしステラは答えに詰まらない。

 「斬り賊には、投げ賊や弓弩使いのようなクリティカルがありませんの。ですから、敵のレベルが高くなるほど、手裏剣攻撃は短剣に比べてダメージが低くなり非効率的になりますわ」

 「なるほどな、斬り投げ両方可能でも、斬り賊の専門はやっぱり斬り技って訳か」

 ウーゴはそう言って納得の表情を見せた。

 それを見て、自分の解説に手ごたえを感じたステラがさらに付け加える。 

 「サベッジスタブの攻撃力は80%×6回で合計480%、二次職レベルでは全職中トップクラスの火力を誇る強力スキルです。ゆえにルディクエでは斬り賊さんが大人気。どこのパーティーでも引く手あまたになっていますわ」

  ボリさんは泣きつかれると断れない性分だから、ついつい財布の中身も忘れてルディクエ漬け。挙句の果てに破産寸前ってことなのね……

 あやめは半ば呆れていた。お人好しにも程がある。

 ――でも、それがボリさんのいいとこでもあるんだけどね。

 口元を軽く緩ませ苦笑いするあやめ。ウーゴとステラも同じ気持ちだった。

 「まぁ、ボリスさんにはいろいろと世話になってることだし、ここはひとつ、俺達でボリスさんの金欠解消のきっかけを作るってのはどうだい? 俺に考えがあるんだ……」

 ウーゴの提案に、あやめもステラも異論などあるはずが無い。

 そのまま三人で額を寄せ合い、ボリスが戻ってくるまでのわずかな時間で作戦会議をした。

  しかし作戦といっても、大したことではない。これから行く予定のちょうちん狩りでは、ボリスに狩り場のメルを全部拾ってもらうように仕向け、当座の資金を稼ぐ。その後、狩りを終えた後で、あやめからボリスにフリマで儲けるノウハウを伝授するといった程度のものだった。

 「おっ、ボリスさんが戻ってきた。みんな、ボリスさんにわざとメル拾わせてるのを悟られないようにするんだぞ」

 「ガッテン!」

 「大丈夫です。これでもポーカーフェイスには自信がありますの」

 三人は平静を装いながら、ボリスを『闇夜の松林』へと連行していった。

 

 ――三時間後。

 「父さん、こんな所でうたた寝してたら風邪引くよ」

 ちょうちん一体を瞬殺したボリスが下を見ながら微笑む。

 狩りを始めてからずっと、もう放ったらかしにしないとか、親孝行するからとか、もっと大事にするからとか、そんなことばかり言っている。

 言葉だけ聞いていると、大抵の人は『ボリスが父親と話している』と判断するだろう。しかし狩り場にはそれらしき人影は見当たらない。

 ――ボリスは何と、そこら中に落ちているメルに話しかけては拾っているのだ。

 短剣を振り回す傍ら、お金に頬ずりしては懐に収める儀式を繰り返す。

 「何か、変なスイッチ入ってないか?」

 「ウーたん、言いたいことはよく分かるわ。でも、ボリさんが悪いわけじゃないの。ビンボーが、すべてビンボーが悪いのよ。キ●グボンビーに呪われたのよ」

 ウーゴとあやめは、言いながら『痛い子』ボリスを哀れむようにじっと見ている。

 「でも、わたくしもメルをすぐ拾わないでいると何か気持ち悪いですわ。お金は大切にしないといけません」

 いたたまれなくなりステラがボリスを弁護する。

 ――だからといってお金に『父さん』とか話しかけるのはやばいと思うぞ?

 いつものウーゴならステラにこう突っ込むところだが、今はそんな元気も無い。

 今日のウーゴは、ちょうちんに全身くまなく舐められまくり二回も墓落ちしている。

 「ここホントにおいしい狩り場なのか? うわさで聞くほど良くない気がするぞ?」

 顔を曇らせてこぼすウーゴ。仲間達と比べて経験値効率も低くなっていた。

 「そんな弱気でどうするの! ボリさんのためにもここは廃狩りあるのみよ! それにせっかく混んでる狩り場を取れたんだし、こんな経験値効率よそじゃ出せないわよ! たった三時間で1レベ上がったじゃない!」

 あやめはウーゴの意見をフルパワーではねつける。

 「確かに経験値効率はすごいですし、ボリスさんに破産を回避してもらためにもこのまま狩りを続けたいところです。でも、安置も休憩場所も無いところで狩り続けるというのは疲れますわ」

 サンダーボルト乱れ撃ちで敵を屠り、四人の中でいちばん経験値効率が高いであろうステラまでもが、狩り場への不満を口にする。

 んもぅ! この根性無し!

 あやめが仲間の不甲斐なさに叫びそうになったその時……

 

 「お前達、狩り場の独占は社会の迷惑だ! 早々に明け渡せ!」

 高圧的な物言いで男が一人現れた。

 「何だお前、横狩りする気か?」

 ウーゴは男達をギロリとにらみ返す。

 「ん? そこにいるのは前にヘネシスで会ったクズ斬り野郎ではないか」

 しかし男はウーゴを軽くスルーし、メル拾いに夢中なボリスを罵倒する。

 「斬り賊を悪く言うな! ……あっ、お前は公正取引委員! 勘違いナイトロードが何の用だ!」

 ボリスが男の正体に気づいた。自分への暴言を聞きつけたためトラウマから引き戻されたのだ。

 「勘違いとは御挨拶だな。まあいい、ちょうどいい機会だから独占禁止組合のギル員を紹介しておこう」

 公正取引委員、略して公取は自分の後ろを見やった。その視線の先には、10代とおぼしき少年三人が控えている。

「スピアマンのカベルネ、クレリックの回復屋清兵衛にアサシンの卍投げ大王卍だ。今後うちのギル員に不快な思いをさせた時は、ワタシへの宣戦布告とみなすからそのつもりでいろ!」

 前にも増してボリス達を脅す公取。少年達は公取の盾になるようにして前へ進み出ると、ボリス達をガン視する。

 「あーっ!」

 突然あやめが少年達をずいっと指差した。

 「あんた達、ヘネシスであたしをしつこくナンパしてきたクソガキ共じゃない! フナムシとミミズかぶってもまだ懲りないようね!」

 叫ぶあやめの顔が、見る見るうちに怒りでゆでダコみたいになる。

 「おまえ、ババァのくせしてまだネトゲなんかやってるのか! なけなしの年金でネクソンポイント大人買いして廃狩りビンボーってか? キモッ!」

 「何ですって! あんた達こそお子ちゃまらしくバナナ味の歯磨き粉で歯ぁ磨いて、紙おむつはいてねんこしなさいよ!」

 少年達の目とあやめの目から火花が飛び散る。もはや全面戦争は避けられそうにない。 

 「ほぉ、どうやらいろいろと訳ありのようだな。ならばこちらも容赦はしない。お前達、アレで一気に片付けるぞ!」

 公取はそう言って懐から何か機械のようなものを取り出した。少年達も指示に従い公取と同じようにする。

 「マクロ探知機、スイッチON!」

 独占禁止組合の四人は、一斉に機械を作動させた。

 突然メッセージウィンドウのようなものが現れ、ボリスの視界を遮る。

 そこには、『5千メル差し上げますのでお手本どおりに4桁の数字を入力してください』というような事が書かれてあった。

 「5千メルもらえるんだ。ラッキーっ!」

 金欠ボリスがこれに飛びつかないわけがない。さっそく数字を入力し始める。

 「ええと、3……9……」

 一心不乱に作業に没頭するボリス。

 あやめ、ウーゴ、ステラも同じ状態になっていて、周りが見えなくなっている。

 「ふっふっふっふっ、はした金に目がくらんだ愚か者め。モンスター共よ、こちらに集まれ!」

 一方、公取はボリスをあざ笑うと、攻撃力の弱い武器でMAPにいるモンスターを手当たり次第に叩いた。

 小突かれたモンスターたちが公取目掛けてわらわらと群がってくる。

 公取はモンスターを自分の体にくっつけさせ、そのままボリスに特攻。たちまちボリスもモンスターのかたまりに巻き込まれる。

 チューパッ! ビチャッ! チュチューッパッ!

 「うわっ、ぬるい! げ、これよだれだ! って、何で囲まれてるんだ? いだっ!」

 ちょうちんによだれまみれにされ、夜狐の魔法攻撃を食らい、またたく間にHPを削られるボリス。

 しかし公取は回避率が高く、接触を難なくかわしていた。

 「まずい、回復しないと……」

 ボリスは塩ラーメンに手を伸ばそうとする。しかし体が思うように動かない。どうやら数字を入力し終えるまでは何もできないようだ。

 賢明な読者諸君はもう気づいているであろう。独占禁止組合は、マクロ探知機の機能を悪用して、ボリス達を狩り場から追い出そうそしているのだ。

 仮に、ボリス達がモンスターの接触に動揺して、制限時間内に数字を正しく入力できなかった場合、ボリス達は不正マクロを使ったと判断されて最寄の町に飛ばされる。制限時間を迎える前にボリス達が接触ダメージで墓落ちですれば、これまた狩り場から排除できる。

 命からがら正確に数字を入力したとしても、独占禁止組合の連中が再度マクロ探知機を発動させれば、ボリス達はもう一度数字を入力する必要に迫られる。身動きが取れない間にボリス達は接触ダメージで墓落ち、もしくは不正マクロ判定を受け飛ばされる。

 仕掛ける側から見れば、まさに一粒で二度おいしい罠というわけだ。

 「うそ、まじ? ちょっ、あだだっ、ウギャ――――ッ!」

 巧妙な罠になす術もなく、ボリスは断末魔の叫び声を上げて墓落ちしてしまった。

 「やめろ! 俺はある例外を除いて舐められるのは嫌いなんだ! こら! そこに舌を入れるんじゃない! アッ、そこは敏感なの。ダメ、うわっ、ゲッ、ほぎゃ―――――――――――っ!」

 ウーゴも、カベルネが集めたちょうちんの全身リップ攻撃を受け、墓落ち。

 「ちょっと、何なのよこれ、わけわかんない! えと、あれ、キャーッ!」

 「5・7・2・9。これで大丈夫ですわね、ポチッとな。えっ、なぜですのーっ!」

 あやめは何が起こったのかも分からないままタイムオーバー。ステラは数字を打ち間違えてしまう。二人とも不正マクロ判定を受けきのこ神社へ飛ばされた。  

October 19

ボリス in maple 第15話

 ルディクエデビュー 第3部  時間いっぱい! 待った無し、結びの一番!
 
 「何だこの箱」
 ボリスは目の前の光景に思わず声を漏らした。
 
 パーティーの現在位置は、第8段階の部屋。
 
 ここには番号が書かれてある箱が9個ある。
 上段左から右へ1番、2番。中断も左から右へ3番、4番、5番。下段も同様に6番、7番、8番、9番と三段に積まれている。
 
 「左に傾いたピラミッドみたいですわね」
 「こんな形のマンション、たまに見るよね。ご近所の日当たりを極力邪魔しないように設計されてるやつ」
 ステラが積み重なった箱をこう形容する。同じものでもボリスには別の形に見えているようだ。
 
 「みんな、カニクエの経験はあるのか?」
 リュフトの問いに初心者四人は小さくうなづいた。
 
 「なら話が早い。カニクエで樽に乗って正解の組み合わせを当てるステージがあっただろ? あれと同じことをここでやるんだ。でもカニクエの時と違って、ルディクエでは9個ある箱の中から5個選んで正解の組み合わせを当てなければならない。カニクエより数段難しくなってるんだ」
 
 説明しているリュフトのそばで、あやめが徐々に青ざめていく。
 
 「9C5=(9×8×7×6×5)÷(5×4×3×2×1) 約分して、9×2×7=126 つまり全部で126通りの組み合わせの中から、正解を1つ当てるってことだな。カニクエは全部で20通りだったから、最悪でカニクエより6倍以上手間がかかることもありうるぜ」
 
 ウーゴが冷静沈着、かつ正確迅速に難易度をはじき出した。
 
 「うそーっ!残り時間あと20分しかないじゃない!大丈夫なの?」
 「お姉さま、リュフトさんとボクもいるし、ラスボスは10分もあれば倒せるから、ここはまず正解を出すことに集中しようよ」
 エマは慌てふためくあやめをなだめると1番の箱へ飛び乗った。
 
 「エマの言うとおりだ。他の人も、2番、3番、4番、5番の箱に乗ってくれ。おれは正解を確認する役を務める」
 『了解』
 リュフトの指示のもと、ボリス、ウーゴ、ステラがしゅびっ、と配置に付く。 
 
 「え~と、え~と・・・・・・どこに乗るんだっけ・・・・・・」
 あやめは苦手なミッションに戸惑いを隠せない。その間にウーゴが2番、ステラが3番、ボリスが4番の箱を占拠する。
 迷っているうちに選択の余地を失ってしまったあやめ。仕方なく最後まで残った5番の箱に登った。
 
 リュフトはクエスト進行役を務める青い風船に話しかけ、答え合わせを始めた。
 
 ビヨ~ン
 コミカルな音と共に、『WRONG!』の文字が表示される。
 
 「次、12346。 あやめ6へ移動」
 リュフトの指示が飛び、あやめは5番の箱を降りた。中段向かって左端の6番の箱に飛び移ろうとジャンプする。
 勢いがつき過ぎて6番の箱を飛び越え、ステラが乗っている3番の箱に着地してしまう。
 
 あれ?
 首をひねるあやめ。一度床に下りてから、もう一度トライしてみたが、また3番に着地。
 次こそ、今度こそと挑戦するのだが、何回やっても6番を飛び越してしまう。うまくいかない。
 
 「あ゛――――っ!何で登れないのっ!」
 あやめはイライラを爆発させて、思わず6番の箱を蹴飛ばしてしまった。
 
 「あやめ、4番の箱に飛び移ってから6番に降りればうまく乗れるぞ」
 「お姉さま、ボクがついてるから怒らないで。これも経験だよ」
 リュフトが技術的なアドバイスを出し、エマはあやめを落ち着かせようとする。
 
 「わかったわ、それっ」
 あやめはリュフトの助言どおり一度4番の箱に乗ってから、6番の箱へ足を運ぶ。
 よし、乗れた。
 ほっと一息つくあやめ。リュフトも同じことを考えながら正解を確認する.。しかし不正解。
 
 「12347、あやめ、7だよ」
 リュフトがさらに指示を出す。休む間もなくあやめが7の箱へ移動を試みる。が、今度は7を飛び越して4へ着地してしまう。
 
 「なんで! またこれなのーっ!」
 あやめはさっきと似たような状況に陥ってしまった。学習能力が発揮されない。焦りといらだちがさらに増幅されていくあやめ。
 
 「お姉さま、今度は、いったん3番に乗ってから7番に降りるんだよ」
 エマは1番の足場から飛び降りた。6番の箱の下からジャンプして3番に飛び移り、そこから階段を下りるようにして7番の箱へ移動する。
 身をもってあやめにお手本を示したエマは、あやめの方を向いて胸元で小さくガッツポーズをとると、てへっ、と小さく舌を出した。
 
 「エマちゃんありがとう」
 あやめは気を取り直し、エマがやっていた手順で飛び移る。やっとうまくいった。
 その間にエマはテレポートを使って、元いた1番の足場へと戻る。
 
 ビヨーン
 しかし答え合わせの結果は不正解。なにせ126通りあるのだ。三回テストしただけで正解が出るほうが珍しい。
 
 「よし、何かだんだん分かってきた。リューさん、チャッチャとやって、サクッと正解出しちゃいましょ」
 「OK!次、12348」
 
 エマの励ましを受けて立ち直ったあやめは、いつもどおりの威勢のよさを取り戻した。
 リュフトも、いつの間にかリューさんと呼ばれていることに違和感を感じることなく、普段のペースで指示を出す。
 
 12349、12356、12357、12358、12359…………
 13456、13457、13458、13459、13467…………
 24567、24568、24569、24579、24589…………
 
 残り時間は15分ほどになっていた。あやめはすっかりコツをつかみ、軽々と箱から箱へと飛び移っている。他のメンバーも要領をつかんでいるようだ。
 しかし正解はまだ出ない。
 
 34678
 リュフトが指示を出す前に、5人がそれぞれ移動した。
 5人の位置が正しいことを確認してから、リュフトが答え合わせを開始する。
 
 CLEAR!
 
 部屋いっぱいにパーティーを祝福する大きな文字が現れた。
 
 『やっと出た!』
 初心者四人がきれいにハモりながら叫ぶ。
 
 「あと13分しかないよ。先を急ごう」
 喜びも束の間、エマの一言によって現実に引き戻された冒険者達は、ラスボス、モーメガバンとの決戦へと赴いていった。
 
 
 「けっ、不気味な部屋だぜ……」
 ウーゴは当たりを見回しながら吐き捨てた。ボリス、あやめ、ステラにしても同じ気持ちである。
 部屋の中は昼間だというのに薄暗く、所々石灯籠のような形をしたオブジェが並んでいる。
 そして一番奥には、玉座らしき椅子が置いてあった。背もたれの上部にはひさし付きの時計が取り付けられている。
 
 「何回来ても、胸にぐっとこみ上げてくるものを感じるよな。まさに最終決戦、ア・●●●・クーだ」
 「リュフトさん、時間無いんだから、ガ●●ム・ワールドから帰ってきてよ」
 エマはリュフトを白昼夢から引きずり出すと、ボリス達四人に向き合い、自分の真上を指差した。
 
 「あそこにいるブラックチューを倒せば、モーメガバンを召喚できるよ。シーフ、ソードマン、ページ以外の職であれば攻撃できるけど、どうする?」
 「よし、俺がやろう」
 エマの説明を聞いたウーゴが名乗りを上げ、紫の風船がくくりつけてある足場に飛び乗った。
 弓を構えて狙いをつける。
 
 距離は足りてる。
 ウーゴは矢が届くことを確認し、いったん弓を下ろす。
 
 「いつでもいいぜ。後はリュフトさんが指示するだけだ」
 「了解、おれが『召喚』と言ったら撃ってくれ」
 「任せな」
 今回が初対面のガ●●ムマニアなリーダーとチョイ悪オヤジ。しかしこの時の二人は、まるで10年間一緒に戦ってきた戦友同士のような雰囲気を漂わせていた。
 
 「モーメガバンは、暗黒攻撃とスキル封印攻撃を仕掛けてくる。暗黒攻撃を受けると目が見えなくなって命中率が下がるから、目薬を使って視力を回復させてくれ。あと、スキル封印攻撃を受けた場合は、文字通りスキルがすべて封印されて使えなくなる。その場合は聖水を頭からかぶって、封印の呪いを解いてから攻撃を再開すればいい。みんな、目薬と聖水を持ってるか?」
 
 リュフトの最終確認の言葉が室内に響き渡る。
 他のパーティー員はおのおのポケットから目薬と聖水を取り出し、両手に山盛りにしてリュフトの目の前に提示した。
 
 「大丈夫だな。ウーゴさん、召喚してくれ」
 「アイ・サー」
 
 ウーゴがブラックチューめがけてダブルショットを打ち込む。
 エマが補助スキル、ブレスを発動させる。 たちまちパーティー全員の命中率と回避率が上昇した。
 リュフトもハイパーボディーを発動。全員の最大HPと最大MPが1.5倍くらいに跳ね上がる。
 
 チュチュチュゥ!
 ブラックチューが腹を上にして息絶えたとき――
 
 ムッヒョーン!
 
 ボイスチェンジャーで電気的に軽く加工したような野太いだみ声とともに、頭に細い柱時計を載せたモンスターが一匹現れた。
 それは、頭から背中にかけてツバメの羽のような濃い藍色をまとい、口から鋭い歯と牙を剥き出しにしている。一方、口から下の腹部は白くまん丸と前に突き出ていて、相撲取りのまわしみたいなベルトを巻いている。そのベルトからは鍵束がぶら下がっていた。
 
 逆三角形の目を薄緑色に光らせ、ボリス達をにらみつけるモンスター。敵の存在に気づいたらしい。
 
 「あいつがモーメガバンだ!行くぞ!」
 
 リュフトの合図でパーティーは攻撃を開始した。
 ボリスとリュフトがふんどし柱時計モンスターめがけて突進していく。
 あやめ、ウーゴ、ステラは後方から矢とマジッククローで援護する。
 エマは敵の攻撃に備え、仲間にヒールが均等に届くようにと、近距離組と遠距離組のちょうど中間の位置に陣取っている。
 
 「パワーストライク!」
 リュフトの鉾が上段から振り下ろされ、モーメガバンの太鼓腹にめり込んだ。
 モーメガバンは1500~2000のダメージを受け、堪えきれずにじりじりとのけぞりながら玉座の方へと後退していく。
 ボリスもサベッジスタブでモーメガバンのわき腹を斬りつけていく。
 
 「切り口からストロー突っ込んで、脂肪吸引してから火ぃつけてやる!悔しかったら『ひでぶ』とか言ってみろ!」 
 
 いまひとつ難解で迫力に欠ける啖呵を切るボリス。一度斬ったところを何度も何度も、なぞるようにして傷口を拡げる。
 モーメガバンは玉座の少し奥、部屋の右端にまで追い詰められた。リュフトのパワーストライクが効いていて身動きがとれない。
 
 「逃がしませんわよ!」
 「深追いし過ぎないでねステラさん。みんなもボクのヒール有効圏内から離れちゃダメだよ」
 エマと遠距離組も、モーメガバンに合わせて右側へにじり寄っていく。
 
 ピカッ
 モーメガバンの目から青白く閃いた。
 
 「目が開けられない」
 「何も見えないじゃないの」
 「至近距離でストロボを焚かれた時よりまぶしいですわ」
 「並みのサングラスじゃ無理だぜこりゃ」
 
 暗黒攻撃という言葉の印象から、目隠しされるように真っ暗にされるというい先入観を持っていた初心者四人は、真逆の攻撃を受けてパニックに陥った。
 
 「まだだ。たかがメインカメラをやられただけだ!」
 リュフトは萎えそうになる初心者組を鼓舞した。しかしリュフト自身も暗黒攻撃で目が見えない。
 
 「リュフトさん、サブカメラ持ってるの?ひょっとして、額のバンソウコウをはがしたら、第三の目が出て来て急に強くなるとか?」
 「いや、それはない。ニュータイプも人の子。神でも妖怪でもないのだ」
 
 目をやられて会話のピントまでずれてしまっているボリス。
 リュフトは、そんなボリスに対して落ち着き払って答えると、ズボンのポケットを素早くまさぐった。
 
 目薬で視力を回復しなければ――
 ポケットを内側から引きちぎるぐらいの勢いで、さらにまさぐる。しかし指は目薬の小瓶を捉えられない。
 
 「しまった! 目薬買い足すの忘れてた――――っ! ええぃっ! おれにプレッシャーを与えるとは…………さらにできるようになったな」
 リュフトは捨て台詞を吐いて攻撃を中断し、体勢を立て直すために遠距離組のさらに後方へ避難した。
 
 「みんな、目薬差して!それとリュフトさん、こんな時に大佐の真似してボケないでよ!」
 エマの指示に従い、リュフト以外のパーティー員は目薬を取り出した。こぼさないように、まぶたに薬ビンの先端を噛みつかせてから中の液体を流し込む。
 
 見える。見えるよエマさん。
 視力を回復したボリスが再度モーメガバンのわき腹に飛びかかる。
 
 遠距離組も光を取り戻し、矢とマジッククローで攻撃を再開。
 「くっ、矢は当たってるけど、押し返せないわ!」
 「寄るな! 俺はデブ専じゃねーんだ!」
 しかし、一撃当たりのダメージが低いために敵を後退させられない。
 
 モーメガバンの逆襲が始まった。
 あんこ型のおなかを揺すりながら、相撲のぶつかり稽古のようにじわじわとボリスを押し返す。
 エマと遠距離組も、後退しながらの攻撃ができないため、距離を詰められていく。
 
 「ボクのポジションが……ニブそうな体しててもなにげに速い」
 
 ずるずると下がりながらも、ヒールで仲間を回復しようとベストポジションを模索するエマ。
 しかし、にじり寄るモーメガバンにスペースをつぶされてしまい、エマは遠距離組に吸収されてしまう。
 ボリスも接触してダメージを受けないよう、後ろにジャンプしながらサベッジスタブで攻撃し続けていたが、モーメガバンのおなかにぶつかってしまい、仲間達のもとに弾き飛ばされた。
 モーメガバンの体がスーパーボールのように高く弾む。
 
 「やばいよ、みんな散らばって!」
 エマが叫んだその時――
 
 ド――――――――ン!
 
 ボリス達の上に、モーメガバンが鉄球のような巨体を落としてきた。
 縦横ともに身の丈の倍以上あるモンスターからフライング・ボディーアタックを食らい、冒険者5人は立ち上がるのがやっとの状態である。
 
 ムッヒョ――――――ン!
 
 おなかを持ち上げながらモーメガバンが吼える。
 突然、ボリス達を取り囲むようにして振り子時計モンスターが現れた。
 青や紫のピエロ帽をかぶったものと、白い布切れをかぶったもの、合わせて3種類、数は全部で15匹ぐらいであろう。
 雑魚モンスター達は、おしくらまんじゅうの要領でボリス達を内側に押し込む。
 
 「ぐるじい……」
 「このままじゃ……圧死だぜ」
 5人は身動きがとれない。雑魚モンスターから接触ダメージを受けて、徐々に体力を消耗していく。
 
 「エマさん、ヒールお願い」
 混雑の中、回復薬に手を伸ばせないボリスが助けを求めた。
 
 「ごめん、無理ぽ。こちらから手を出さないで。密集を抜け出してから聖水をかぶって」
 
 エマは自分の頭上を指差しながら、初心者四人を申し訳なさそうに見つめる。
 そこには錠前の形をした黒い影があった。モーメガバンのスキル封印攻撃である。
 しばらくエマの援護は当てにできない。
 ボリスは自力で脱出を試みる。ペットボトルに気の力を込めた。
 
 「天・流・血・斬・殺 勇猛野蛮の刃よ、我に力を!」
 サベッジスタブ発動の呪文を唱えて短剣を振り回すが、いつものように振り抜けない。
 力任せに振り回した腕の勢いでバランスを崩したボリス。思わずあごをしゃくり上げた時、ボリスは自身の頭上にも錠前の影があることに気づいた。
 
 僕もスキルを封印されてる……早く抜け出さないと――
 焦るボリス。しかし雑魚モンスターは再びボリスに密着してくる。
 体のあちこちを殴られ、蹴られ、さらにHPが削られる。四方から押さえ込まれていて薬に手が届かない。
 ボリスはもう一度エマを見やる。
 しかしエマは、HPMPを同時に50%回復させる秘薬、エリクサーを立て続けに飲み、自らの延命を図るだけで精一杯である。
 
 ――もう死ぬ。せめて遺骨は●狩川から日本海に流してほしい……
 ボリスが諦めかけたその時――
 
 「スラッシュブラスト!」
 リュフトか雑魚モンスターの群れに割って入ってきた。
 バチバチバチバチバチバチッ! ベチベチベチベチベチベチッ!
 愛用の鉾、スノーボード(闇)を上段から打ち下ろす。スノボのエッジ沿いにモンスターが六体捉えられ、大口を開けてのけぞる。
 リュフトが三打目を放つと、敵はあっけなく絶命した。
 
 「道を開けたぞ! 早く出ろ!」
 5人はリュフトの誘導でモンスターの群れから命からがら抜け出した。
 
 「助かったよリュフトさん! てか、どうやって暗黒状態を治したの?」
 エマはそう言いながら聖水を頭からかぶり、スキル封印の呪いを解いた。すかさずヒールでHPを全回復させる。
 
 初心者四人も各々封印を解き、背中を丸めながら一息ついている。
 リュフトはポケットから瀬戸物の小瓶を取り出して仲間に見せた。
 それは万病治療薬。気絶以外の状態異常を治療する、まさに万能薬と言っていい薬だ。
 
 「こいつを使ったんだ。この間フリマでまとめ買いしていたのをすっかり忘れていた。」
 「リュフトさん、さすがだね。まぬけな失敗を見事に大ボケでリカバーしちゃったよ」
 「認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものを」
 
 ほめ殺し気味に感心するエマ。答えるリュフトの口調は、知らず知らずのうちに大佐の名ゼリフみたいになっていた。
 
 「休んでる場合じゃないよ、あと10分しかない!」
 ボリスが声を荒げて時計を指差す。
 
 「ステラさんは雑魚処理を頼む。残りはモーメガバンだ、おれに続け!」
 『おーっ!』
 リュフトを先頭にして、ボリス、エマ、あやめ、ウーゴが反転し、モーメガバンに襲いかかった。
 
 「ええぃっ、これ以上好きにさせんぞ! このTバック野郎!」
 リュフトがパワーストライクで再びモーメガバンを玉座の近くまで追い詰める。
 
 「オーバーウェイトで自滅しろ! ヒザに爆弾抱えたK●N●●●●KIのように!」
 ボリスはモーメガバンのひざをサベッジスタブでねちねちと斬り刻んだ。
 
 「全身矢まみれのハリセンボン状態にしてやるわ!」
 「だから角●●造じゃね~っての!」
 あやめとウーゴは狙いをつけずに、速さ優先で巨体のモンスターをとげだらけにしていく。
 
 呪文を唱えるステラの体が、青白いほのかな光に包まれる。
 「サンダーボルト!」
 
 イァーッ! アアォーッ! ヘイッ!
 アメリカのギャグアニメでよく出てくるような叫び声を上げて、雑魚モンスターが息絶えた。
 
 残るはラスボスのみ。
 
 「ラストスパートだぉ」
 エマがヒール一辺倒からマジッククローを織り交ぜた支援に切り替える。
 そこへ雑魚を倒したステラが合流。
 
 「エマさん、交互に攻撃して、隙を作らないようにしましょう」
 「了解」
 エマがワンドを手前に振り戻すところを見計らい、ステラがワンドを振り抜く。マジッククローの攻撃サイクルが一気に二倍近くまで跳ね上がった。
 
 ブンッ ズシッ!
 リュフトも休むことなくスノーボードで打ち据える。敵はもう前にも後ろにも動けない。
 ボリスの高速スライスが、ストロークの風切り音と共にモーメガバンの皮膚をはがす。まさに『かまいたち』だ。
 
 「敵の目を狙うぞ!」
 「ガッテン!」
 あやめとウーゴは誤射を避けるため、モーメガバンの目に矢を集めた。
 モーメガバンは目を押さえようとしても手が届かず、腕を激しく上下に振りながら身悶える。
 
 ポチョーン――
 電子音が響く。モーメガバンの輪郭が徐々にぼやけ、霞のようになる。丸いおなかの下側から順に、部屋の空気に溶け込むようにして消えていく。
 
 残された鍵束が、ジャラジャラリと音を立てて床に落ちた。
 
 「モーメガバン撃破」
 鍵を拾い、リュフトがクールに勝利宣言する。
 
 「最強の切り賊に……また一歩近づいたぞ!」
 「初勝利よ!」
 「すごい、経験値がルディクエ開始前より15%アップしてますわ」
 「モメガ、獲ぉ~ったどーっ!」
 ボリス、あやめ、ステラ、ウーゴの四人は小躍りして喜びを体で表した。
 
 「どぉする?もう一回やる?」
 『もちろん!』
 エマの問いかけのあと、残り五人の声が、力強くユニゾンで暗い部屋の中に響き渡った。
 
(ルディクエ編 完)
October 10

再度念押しいたします、この物語はフィクションです

 私のブログと小説「ボリス in maple」を読んで頂いている皆様、お付き合い頂き、誠に有難うございます。
 去る10月9日、「ボリス in maple」に登場するある人物の名前が、あるサーバーでプレイしていらっしゃる方のキャラクター名と酷似していることが判明しました。
 再度念を押す意味でこの場を借りて申し上げます。
 
 小説「ボリス in maple」はあくまでもフィクションです。
 この物語の登場人物、および団体名は実在のものとは一切関係ありません。
 
 作者としても、「ボリス in maple」が、皆様からより一層のご支持を賜ることのできる作品になるよう、心を砕いていく所存ですので、何卒ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます。
October 08

ボリス in maple 第14話

 ルディクエデビュー 第2部 燃えるリュフトVS萌えるエマ
 
 第四段階マップに入ったボリス達6人は大きな柱を見下ろしていた。その柱には何箇所か四角い穴みたいなものがあり、淡い光がゆっくりと渦巻いている。
 
 「あの穴の中にはモンスターがいる。しかしおれが指差している穴と一番下の穴はダミーなので入れない。残りの5つの穴の中に敵がいるからそいつらを倒して通行券を集める、それがこのステージでの目的だ」
 リュフトは一番手前の穴を指差して大まかに説明した。
 
 エマが床に新聞紙半分ぐらいのサイズの紙を拡げた。どうやらこの柱の見取り図らしい。一同の視線が紙上に集まる。
 
 「モンスターがいる部屋を、便宜的に上から順番に1から5まで番号をつけて呼ぶよ。1、2、3の部屋にいるモンスターは物理防御力が高いから、魔法使いが倒し、4と5は魔法防御力が高いから、魔法使い以外の職が担当することになるよ。4の部屋にはモンスターが2匹いるから、ここだけは二人で入るんだ・・・・・・」
 
 エマはボリス達初心者組が自分の話を理解していることを目で確認し、さらに話を続ける。リュフトはエマの話を聞きながら大きくうん、とうなづいている。
 続いてエマは柱の見取り図をパラりと裏返した。見ると、一面黒く塗りつぶされていて、真ん中へんにぎろりと光る目がふたつ、こちらへ向けてガン飛ばしている。
 
 「部屋の中は真っ暗で、こんな奴がいる。こいつは闇に溶け込むことができるんだ。だから、こちらから攻撃できるのは相手が姿を現した時だけ。でもその時僕らから見えるのはこんな感じで、敵の目だけだからね。敵の目が現れたら即座に攻撃。目が消えたらその場で動かず待機。敵の姿が現れている時は相手からもダメージを受けるから気をつけてね。質問あるかな?」
 
 目だけやたらと目立つモンスターの絵を指し示しながら注意事項を説明したエマは、もう一度メンバーに確認。どうやら正しく伝わっているようだ。
 
 「エマは1の部屋、ステラさんは2、おれは3、ボリスさんとあやめは4、ウーゴさんは5を担当してくれ。先に倒した人はまだ倒していない人の援護を頼む」
 「質問」
 リュフトの役割分担を聞いてボリスがすかさず手を上げた。
 
 「リュフトさんは魔法使い有利な敵を相手にして大丈夫なの?」
 「あぁ、そのことか、50レベ近くになると、相手の弱点を気にしなくてもいい程度にまでこちらが強くなってるから、安心してくれ」
 リュフトは簡潔にボリスの問いに答えると、きびすを返して再度柱を見下ろした。
 
 「突撃!」
 
 リュフトの号令に従い全員所定の部屋に突っ込んでいく。ボリスとあやめも下から3番目の入り口を駆け抜けていった。
 中に入ると、入り口以外何も見えなかった。手探りをするような心もちで、二人はすり足気味にそろそろと前進する。
 
 「全然気配がしないよ。ほんとにモンスターがいるのかな?」
 ボリスは思わず不安を口にした。リュフトとエマを疑っているわけではないのだが、あまりにも静かすぎる。
 
 「ほんと、今までとは違う感じ。というか、いる気配が全くないわ」
 本来であれば気配が無い=安全と判断するあやめの第六感も、度が過ぎるために返って警戒を強くしている。
 
 「うぉぐぅっ!」
 
 突然あやめは右わき腹に重く素早い衝撃を感じた。思わず獣じみた声が漏れる。
 バットかハンマーで横殴りにされたような感覚で、痛みを伴い自分の体がライナーで飛んでいくのが分かる。
 宙を舞うあやめはボリスにぶつかった。
 
 いきなり人らしきものが飛んできたボリスは自分の胸板に何かがぶつかる感触に慌てたが、名キーパーの顔負けの反射神経が働いてくれたおかげで、何とかあやめを受け止めることができた。
 
 あやめが飛んできた方向に二人で目をやると、先ほど絵で見た目がこちらをにらみつけている。
 どうやらあやめは、ワープするようにして現れたあのモンスターにはねられたようだ。
 
 「あやめさん大丈夫?」
 「うぅ・・・・・・大丈夫、動けるわ。かなり痛いけど、打撲よ。大したことない」
 「よかったー!」
 
 無事なことがわかり、ボリスはあやめを抱えて起き上がろうとした。
 
 むにゅん――
 
 左手に何か柔らかい感触が伝わってくる。それはボリスの手からあふれ、つかみきれないぐらいの大きさでむにむにとしている。
 
 ビタン!
 
 ボリスは脳天に張り手を食らった。思わず頭を抑える。
 
 「ドサクサに紛れてあたしの胸揉まないでよっ!」
 「え?あ、ごめんなさいごめんなさいこめんなさいごめんなさい!わざとじゃないんだ!」
 「わざとだったら即射殺よ!気をつけてよね!」
 
 涙目で抗議するあやめに、ボリスは米つきバッタのようにペコペコと平謝りするしかなかった。
 
 「1完了」
 「2完了」
 「3完了、以後5を援護する」
 グルチャからモンスター討伐と援護の連絡が流れる。
 「4に援護をお願い」
 ボリスもチャットで連絡した。
 
 「援軍到着だよ」
 エマの声が部屋の中に響き渡った。
 
 「エマさんありがとう!てか、来るの早っ」
 「ボリスさんが援護要請した時、ボク偶然4の部屋の入り口にいたんだ。お姉さまのためならどこにだって飛んでいくよ」
 「エマちゃん!早くこっちに来て!」
 
 エマの登場に勢いづいたボリスとあやめは体勢を立て直し、背中合わせにお互いを守りながら敵の襲撃に備えた。
 エマは素早く合流を図るため、部屋の中をテレポで移動する。
 しかし移動距離の目測を誤り、ボリスと激突してしまった。
 予測がつかないぶつかり方をしてしまったせいで、ボリスもエマも暗闇の中で方向感覚を見失う。
 
 「いたたたたたた・・・・・・」
 倒れたボリスの頭の方向でエマの声が聞こえた。
 
 「エマさん!」
 「エマちゃん!」
 慌てて声のする方へ駆け寄るボリスとあやめ。しかし二人とも目でエマを確認できていない。
 
 「え?うわっ!」
 暗闇の中で慌てたボリスは段差につまづいて前のめりに突っ伏してしまった。
 
 「きゃうっ!」
 ボリスが倒れたのはエマの体の上。エマの驚きの叫びがそれを教えてくれた。
 
 「エマさんごめん、痛くない?」
 
 ボリスはエマを気遣い、手探りでエマを抱き起こそうとした。
 仰向けに寝ているエマをイメージして、床からエマの背中をはがし、隙間に腕を通しててのひらでエマの体を支える。
 よし、やっぱりこれは背中だ。さっきのミスから学習してる。えらいぞ僕。
 ボリスは手のひらに力を込めてエマを起こしにかかる。
 
 「いでぇーっ!」
 
 いきなり手の甲をつねられてボリスは手を引っ込めた。
 手を押さえながら顔を上げると、目が慣れてきたのか、エマが半身を起こしてこちらをにらみつけているのがわかった。
 
 「ボリスさんのエッチ!ボクの胸触った!」
 
 実はうつぶせに倒れていたエマを、ボリスは胸をつかんだ状態でエビ反り気味に抱き起こしてしまっていたのだ。
 
 「うそ、また?ごめん、ほんとにごめん、わざとじゃないんだ。背中と間違えていたんだ。ごめんごめんごめんごめん、ごめんなさーいっ!」
 
 今度は大丈夫と思ったのに。何でまた・・・・・・
 ボリスはひれ伏すと自分の後頭部の上で手を合わせた。誠意を込めて謝った、つもりであった。
 だが、パニクるボリスは、自分がエマの怒りを静めるどころか、逆に火に油を注ぐような失言をしていたことに気づいていない。
 
 背中と間違えていたんだ 背中と間違えていたんだ 背中と間違えていたんだ・・・・・・
 
 エマの頭の中で、ボリスの言葉が轟音でうねりながら反響していく。
 彼女にとっては人種差別発言と等しい意味を持つ言葉だ。脳内で繰り返されるNGワードはエマの自我を袋叩きにしていき・・・・・・
 トラウマを起爆させた。 
 
 「貧乳は、正義だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 
 怒りの叫びを上げてエマは狂戦士(バーサーカー)と化した。室内の一点を見据えると、何も無い空間へ特攻を仕掛ける。
 「マジッククロー!」
 魔法の爪を打ち込んだ場所に、突然目だけが出現する。エマの攻撃のうち一回はミスが出たが、もう一回はモンスターにダメージを与えてた。
 
 「うそだろ?」
 「湧きを読めるの?あの娘」
 
 思わず声を漏らすボリスとあやめ。驚きのあまり、さっきまでのドタバタ劇は頭の中からきれいさっぱりデリートされてしまっている。
 何とエマはモンスターの現れる位置を先読みしていたのだ。
 
 「正義の魔女っ娘、ペタンコエマちゃんだ!ボクの怒りを思い知れ!ペタツルペッタンペタペッタン!」
 魔法少女のお約束である意味不明な呪文を唱えると、モンスターが現れる瞬間を狙ってマジッククローを放つ。
 
 「ボリスさん、あたし達も援護しましょう」
 「OK!」
 ボリスはエマの左脇に、あやめはエマの少し右後方に、それぞれポジションを取る。
 
 「ペタツルペッタンペタペッタン!」
 「今だ!サベッジスタブ!」
 「ダブルショット!」
 
 エマが攻撃するタイミングに合わせ、ボリスはジャンプして空中でモンスターを斬り刻み、あやめはボリスが切り傷をつけている場所を狙って矢を放つ。
 一匹目のモンスターは無言で果てると通行券を残していった。
 
 しかしエマは通行券には目もくれずに先回りして二匹目のモンスターを叩きにかかる。
 ボリスとあやめもフォーメーションを維持したままジャンプサベジとダブルショットでモンスターを削っていく。
 
 「ペタツルペッタンペタペッタン!」
 「これで仕上げよ!」
 
 二匹目のモンスターが四回目に現れた時、あやめの矢が敵にとどめを差した。
 
 「4完了」
 グルチャで報告を入れながら券を二枚拾うボリス。
 少し離れたところでは、平静を取り戻したバーサーカー少女がいた。
 精気を使い果たしたかのようにガクリとへたり込んでいる。
 
 「エマちゃん!つらい中よく頑張ったわね、おつかれさま」
 あやめはエマに歩み寄り、わが子をあやすかのように、自分の大きな胸にエマの顔をそっと押し付け、そのまま抱きしめた。
 
 「巨乳なんて、嫌いだぁ・・・・・・」
 緊張が解かれたのか、エマはあやめの胸に寄りかかり力なくつぶやく。
 
 「エマちゃん、大丈夫よ。若いんだから、これからおっきくなるかもしれないし、たとえ小さいままでも、そっちの方が好きっていう人もいるんだから」
 「でも・・・・・・お姉さまのおっぱいは大好き!」
 「ちょっ、いきなり揉まないで!あん、エマちゃん、離して、やめて~っ!」
 「いいじゃないか~、減るもんじゃないし、もっとごほうびちょうだ~い」
 
 おねだりするエマを何とか引きはがし、三人は仲間の元へと帰っていった。
 
 
 第五段階―
 
 パーティーは塔の迷路と名づけられたマップにいた。
 
 ここには1~6までの番号が付いた部屋がある。これら6つの部屋には通行券が入った宝箱が4個ずつあり、この箱を壊して券を集めるのがここでの目的である。
 ただし、1の部屋は魔法使いのスキル、テレポートを使わないと箱にたどり着けないような構造になっており、また、6の部屋では接触しただけで冒険者を死に追いやるモンスターが邪魔をしているため、盗賊がダークサイトを使ってモンスターの体をすり抜けながら券を集めなければならない。
 
 「エマは1へ、ボリスさんは6へ行ってくれ。残りの人は好きな部屋に入っていいから、入る時に部屋番号をチャットで申告してくれ」
 『了解』
 「作戦開始!」
 リュフトの合図で6人はそれぞれ部屋に入っていった。
 
 ボッシュ~ッ
 ボリスもダークサイトを発動させ、魔法がかけられて不死身になっているロボットモンスター、キングブロックをスルーして6番の部屋へ入っていく。
 
 「ここを登るんだな、よし」
 
 ボリスはジャンプして鎖をがっしりとつかみ前進を始めた。
 実はダークサイトには、スキルレベルが低いほど発動時の移動速度が遅くなり、また、持続時間が短いという特徴がある。
 つまり、スキルレベルが低すぎるとキングブロックをすり抜ける前に、時間切れでスキルが解除され接触死する危険があるのだ。
 ゴリラのように拳をついて右へ左へと歩くキングブロックの体を、接触死の恐怖と戦いながら半透明になったボリスがすり抜けていく。 
 しかし、思うようにスピードが出ない。
 焦りを無慈悲にもあざ笑うかのように、ボリスの体は徐々に実態を浮かび上がらせてく。
 
 「まずい、しぬ」
 
 死の影が迫る。一向に上がらないスピード。ああお釈迦様、迷える僕にお慈悲を、蜘蛛の糸を!
 
 ボリスはそう念じながら天敵から逃げるイモムシのように体を伸び縮みさせた。
 
 ボッシュ~ッ
 
 時間切れでスキルが解除された。キングブロックの体をすり抜け、自分のつま先との間に薄紙一枚のすきまができた時だった。
 ボリスの祈りは通じた。
 
 「危なかったーっ!」
 
 ボリスは肺が空になるのではと思うほど深くため息をついた。
 
 鎖を登りきり、箱を壊して中の通行券を懐に収める。
 
 そうだ!この手があった!
 お釈迦様が蜘蛛の糸を使って、埋もれていた知恵袋を引き上げてくれたであろうか。ボリスの頭に、第1段階でステラが使っていたアイテムの絵が浮かび上がってきた。
 ボリスは短剣をさやに収め、カバンの中から赤浮き輪を取り出すと一気に頭からかぶり、再びダークサイトを発動させた。
 
 新たな鎖に飛びつき登攀(とうはん)を開始する。
 さっきより速くなってる。
 
 ボリスのもくろみは見事成功した。赤浮き輪に付いている補正機能を利用して、ダークサイト中の移動速度を上げたのだ。
 もうだいじょうぶ、怖くない。
 
 安心は人をこうも変えるのであろうか、ボリスは浮き輪を得たカナヅチ、もとい、水を得た魚のようにすいすいと鎖をよじ登る。
 キングブロックの体をイルカのように優雅にすり抜け、箱を次々と壊してあっという間に通行券四枚を集め終えてしまった。
 
 「6完了」
 ボリスはチャットで仲間に報告を入れて意気揚々と部屋を出た。
 どうやら自分が一番乗りのようだ。
 
 「どこか手伝う?」
 
 ボリスが再度グルチャ回線で呼びかけた時、エマ、あやめが戻ってきた。続いて、ウーゴ、ステラ、リュフトが現れる。
 
 リュフトは仲間から券を回収し、24枚そろっていることを確認。
 
 CLEAR!
 
 茶色い文字が6人を祝福する中、パーティーは残り時間を気にしながら先を急いだ。
 
 
 第六段階のワープ階段を難なくクリアしたボリス達一行は、ずんどう鍋のように深くくぼんでいる部屋にたどり着いた。
 
 リュフトは仁王立ちになると、胸元をまさぐった。
 シュピゲルマンのネックレスをつかみ、首からさげたままの状態で天にかざす。
 
 「今からおれがロボットモンスターを召喚するから、それをみんなで倒してくれ。ロムバート!カムッヒアーッ!」
 
 しかし何も起きない。
 
 カムッヒアーッ!カムッヒアーッ!カムッヒアーッ、カムッヒアーッ・・・・・・・・・・・・
 
 リュフトの声だけが室内をこだまし、消えていく。
 
 「違うでしょ!」
 エマが精一杯背伸びしてリュフトの胸板に逆水平チョップをお見舞いした。
 
 「だってロボ呼ぶ時のお約束だろ?ダ●●ーン3 全40話見てないのか?エマ」
 「そんなのスーパーロ●●ト大戦でしか見たことないよ~! ルディクエ経験者なんだから、召喚のしかた知ってるんでしょ、変なとこでふざけないでよ」
 「いや、これでも呼べるかなぁ~って思って。あと、笛を三回鳴らすってのも試してみないと」
 「いらんことすな~っ!」
 
 エマは懐からハリセンを取り出すと、妙なところでこだわりを見せるリュフトの左肩とほおをVの字斬りで張り倒した。
 必殺技を食らいうずくまるリュフトに代わり、エマがボリスたちに説明する。
 
 「ロボットモンスター、ロムバートを召喚するには、上の足場にのぼって、向かい側の足場にいるモンスターを倒すんだよ」
 「じゃあ、召喚役はあたしがやるわ」
 
 せっかちなあやめはエマが話し終わるや否や、鎖をすいすいと上ると足場にアドレスを取り弩を構えた。
 
 「サクサク倒しちゃいましょう、ダブルショット!」
 「お姉さま、ちょっと待って!」
 
 エマが制止するのも聞かずに、あやめは向こう側の足場に矢を連射した。
 ホワイトチュー、ブラックチュー、ブロックパスが折り重なるようにして力尽きる。
 それにあわせて、黒とからし色のツートーンカラーのロムバートが三体、からし色をしたナイトブロックが六体、音も立てずに現れた。
 九体のロボットは、ゴリラウォークで狭い部屋の中をガチーンガチーンとでかい金属音を立てて走り回る。
 たちまちボリス達は足の踏み場も無いほどロボに接近されて両端へ押しやられる。
 ロボも人も入り乱れ、満員電車でバトルロイヤルに巻き込まれたような状態になった。
 
 「くそっ、何だよこの湧き!矢が打てない」
 「危なくマジックガードをかけ損ねてお墓するところでしたわ」
 ウーゴとステラは密集の中でまだうまく対応できない。
 
 「だから上のモンスターを一気に倒してしまうとロボが鬼湧きするから、一匹ずつ倒してって言おうとしたのに、お姉さま最後まで聞いてくれないし~~~」
 「え?あたしのせい?あら、ごめんちゃい♪」
 エマが半ベソかいてダメージ回復スキル、ヒールをかけまくりながら抗議する。それをあやめは、得意のぶりっ娘口調で笑ってごまかした。
 
 「とにかく全部倒すしかない。スラッシュブラスト!」
 Vの字斬りのダメージから立ち直ったリュフトは、上段の構えでロボの束に飛び掛り、空中でロボたちの頭めがけて鉾を振り下ろした。
 
 ベキベキベキベキベキベキッ!
 ロボ六体が一瞬動きを止めてのけぞる。
 
 「お前らみんな細切れにして、リサイクルに出してやるっ!」
 ボリスは体をかかめてロムバートのかかとに飛び込み、アキレス腱を集中的に狙ってサベッジスタブで切り刻んでいる。
 
 カタカタカタカタカタカタッ!カタカタカタカタカタカタッ! カタカタカタカタカタカタッ!カタカタカタカタカタカタッ!
 
 リュフトの攻撃である程度消耗し、さらにボリスに急所をズタズタにされたロムバートは、足を壊されてバランスを失い床に崩れ落ちた。
 
 遅れてロボ渋滞の中に飛び込んできたあやめは、ウーゴと同様、敵と十分な距離をとることができない。
 遠距離組二人は弓や弩で殴るのが精一杯である。
 
 「電撃だっちゃーーーーーっ!」
 
 ステラは部屋の真ん中に陣取り、鬼の形相でクリスタルワンドの底をを床に何度も打ちつける。
 そのたびに彼女の頭上から天誅の閃光が撃ち下ろされた。
 
 バリバリバリバリッ!バリバリバリバリッ!
 
 空気の抵抗を破って高圧電流がロボたちの体に容赦なく降り注ぐ。
 ステラがもう一度ワンドを打ち下ろした時、ロボ達がいかずちに体を蝕まれ、連鎖して仰向けに倒れた。
 残るはロムバート一体のみ。
 
 「視界が開けた!ウーたん、とどめよ!」
 「おっしゃぁーっ!」
 
 渋滞から逃れたあやめとウーゴが最後のロムバートに矢を集中させる。
 ステラは接触を防ぐためにロムバートから離れ、あやめやウーゴと同じ位置まで移動した。
 ボリスはロムバートの右から、リュフトはあやめたちと同じ左側から挟むようにして飛びかかる。
 エマはリュフトに密着してパーティー全員をヒールで援護する。
 
 「パワーストライク!」
 「サベッジスタブ!」
 「サンダーボルト!」
 
 リュフト、ボリス、ステラがとどめの一撃を放った。
 
 ヴィヴィヴィヴィヴィギューン―――
 
 ロムバートはぎこちないモーター音を立てながら前のめりに突っ伏し、そのまま停止した。
 
 「中ボス撃破だ」
 
 リュフトは鉾を背負うと腕で汗をぬぐいながらつぶやいた。
 
 「やった!」
 「危なかったぜ」
 「あたし何かフクザツぅ~っ」
 「往生こきましたわ」
 
 初心者の四人はそれぞれ初撃破の感想を短く表す。
 
 「ほら、時間もあまり無いし、次行こうよ」
 エマは通行券を三枚拾い集めると、それをリュフトに渡して仲間に先を急ぐよう促した。
 
 「残りあと二段階だ、みんな最後まで頑張ろう!」
 『おーっ!』
 
 リュフトの言葉に全員が拳をつき上げて答え、パーティーの士気はさらに上がっていった。
(15話へ続く)
October 06

ボリス in maple 第13話

 ルディクエデビュー 第1部 お姉さまと呼ばせてください!?
 
 天流血斬殺 天流血斬殺 天流血斬殺・・・・・・
 
 ボリスは短剣『ペットボトル』を装備し、斬り賊スキル『サベッジスタブ』の技のキレを確認した。
 力まずに流れるように短剣を振れるようになった。6連で斬れる。
 ペットボトルを通じて何かの力が流れ込んでくるような、不思議な感触。
 
 ここは7CHエオス塔101階。ボリス、ウーゴ、あやめ、ステラは、ギルドマスターのミカエルを待っていた。
 ボリス達4人の依頼を受けて、ルディクエ攻略のためにミカエルが助っ人を連れてここに来てくれる事になっているからだ。
 ギルド員思いで実直な少年マスターは、今日のためにいろいろと動いてくれていたらしい。
 ミカエルの厚意に報いたい。
 ボリスは決意を込めてもう一度ペットボトルを振る。
 
 天流血斬殺・・・・・・
 
 「ボリスさん、また素振りかい?今から根詰めると本番まで持たないよ?」
 締まりのないだらけた声を耳にして、ボリスの意識は短剣から切り離された。振り返ると、サングラスをかけたウーゴがリラックスチェアに体を預け、足を組んで葉巻をくゆらせている。
 
 「そーよ、オルビスでジュニア三色犬狩りとチャリクエをやりまくって40レベまで頑張ったんだから、ルディクエだって大丈夫だよ」
 
 あやめは碁盤とにらめっこしながらウーゴをアシストする。ボリスが入れ込み過ぎないようにとの気配りから出た言葉なのだと思う。でも、ルディクエよりも目の前の勝負に気をとられているようにも見える。
 
 「マスターが経験豊富な助っ人を2人ここに連れて来るわけですし、何も心配する必要はありませんわ」
 ステラはそう言うと、五目並べ対あやめ戦10連勝を決める一石を盤上に打ち込んだ。
 
 「あーっ!また四三作られた!ぐやじ~っ!」
 「では神経衰弱でリベンジしますか?あやめさん」
 ただの1勝もあげられず、ピグとスライムの姿をかたどった碁石を握り締めながら苦悶するあやめ。ステラはそれを特に気に留める事もせずに、カバンから神経衰弱セットを取り出した。
 
 「ちょっと!あやめさんとステラさんは緊張感なさ過ぎだよ!」
 ボリスがにわか女流棋士たちをたしなめたその時・・・・・・
 
 「こんにちは皆さん、お待たせしました」
 ミカエルが現れ、いつもどおり折り目正しくお辞儀した。彼の後ろには、鉾を持った韓流アクションスター似の男と、ステラよりさらに小柄な、10代と思われるツインテール少女が控えている。
 
 「紹介します。鉾を持った方がリュフトさん、ぼくの友です。そしてこちらのツインテールのお姉さんが、ぼくの従姉でエマといいます。」
 ミカエルはボリス達に自ら厳選した助っ人を紹介した。
 
 「初めまして、ボリスです。今日はお忙しいところありがとうございます」
 「おれはリュフト、職はスピアマンです。よろしく」
 お互い自己紹介しながらがっちりと握手を交わす。
 
 「エマだよ~。職はクレリック。ボクか来たからには、大船に乗った気でいてね。責任持って教えるから」
 エマは軽く会釈したあと、薄い胸を目いっぱい張ってボリス達4人を見据える。
 
 「あたしはあやめ。よろしくね」
 「俺はウーゴ、チョイ悪ハンターだ」
 「氷雷ウィザードのステラです」
 さっきまで葉巻と五目並べを楽しんでいた3人も、姿勢をただして自己紹介した。しかし、アニメでしか見たことのないボクっ娘を目の当たりにした衝撃は隠せない。
 
 「時間もったいないし、早速始めよう。グル誘うね」
 ボクっ娘へのリアクションで生じた妙な間をもてあましたリュフトが自らリーダーを引き受け、ミカエルを除く6人はグループを組む。
 このあと地球防衛本部へガンティアン退治に向かう予定のミカエルから見送りを受け、ボリス達はクエストMAPへと進んでいった。
 
 
 第1段階――
 
 ここでのミッションはおもちゃねずみモンスターであるホワイトチューとブラックチュー、合計25匹を倒し、このモンスター達がドロップする次元の通行券25枚を集めてクエストの審判役をしている風船に渡すことである。
 ボリスはこれから進もうとしている通路を見上げた。背中にぜんまいのネジがついた白いねずみと黒いねずみが、あちこちでうろちょろしている。
 
 「ボリスさんはダークサイトで先にてっぺんまで行って、上から順番にねずみを倒して下さい。他の人はおれと一緒に下から順に倒します」
 『了解!』
 リュフトの指示のもと、パーティー員はそれぞれ動き出した。
 
 ボッシュ~ッ
 ボリスはダークサイトで姿を隠し、モンスターをすり抜けながら塔を上っていく。
 
 「ここに来るたびに思うんだけどさぁ、機械の白チューに黒チューだらけで、ネズミーランドって感じするよね」
 エマがポツリとつぶやいた。 相槌を打つリュフトの後ろで、なぜかあやめの目が鋭く光る。
 
 「キカイの黒チュウ?南の島の名物だわ!」
 あやめはよだれをすすりながらモンスターににじり寄る。
 
 「こいつが落とすのね、うぉりゃぁーっ!酒よこせこんちくしょーっ!」
 
 あやめは普段両手持ちで扱う弩を片手で持ち、一番手前のモンスターの喉元に突きつけた。
 弩の弦がシュポンと弾け、同時に押し出された矢がホワイトチューを串刺しにしていく。
 最低ダメージを引き上げるスキル、プログレスの効果で1次職の時より矢は威力を増している。
 敵が動かなくなったことを確認すると、あやめは狂犬のような形相で次のモンスターめがけて特攻していった。
 
 「キカイの黒チュウ・・・ぐへへっ」
 時折口元からあふれるよだれを袖でぬぐいながら、わざわざギリギリまで接近してなおも片手持ちで引き金を引くあやめ。目が限りなくアブない。
 
 キキチューッ!
 立て続けにもだえ苦しみながら果てていくモンスター。あとには黄色いチケットが点々と残っていた。
 
 「あやめさん、かっこいい。でも、酒よこせって何だろう?」
 エマは謎の言葉に首をかしげつつも、うっとりした表情であやめの狩り姿を見つめていた。今にも目からハートが飛び出そうな勢いである。
 
 「おれにもわからん」 
 エマを追いかけながらチケットを拾うリュフトも首をかしげる。
 
 「こういう時は、ボリスさんに翻訳してもらえばいいよ。ほら、もうすぐ中間点近くであやめとボリスさん合流するみたいだし」
 あやめの活躍?のために暇をもてあましているウーゴは、リュフトの肩をぽんと叩くと塔の中腹にある狭い足場を指差した。
 
 リュフト、ステラ、エマがその方向を見上げた時、ボリスもまた最後のモンスターーを倒し終えたところだった。あやめもボリスと同じ足場にたどりつき、二人で仲間に手を振っている。
 何と、二人だけで合計25匹のゼンマイねずみを倒してしまったのだ!
 
 「リュフトさーん!一箇所だけジャンプしても飛び移れない場所があるんだ。手裏剣を投げて倒したんだけど、通行券を拾えなくて・・・・・・どうしよう」
 「ボリスさんお疲れ~。じゃあステラさん、一番左上の足場にある通行券を、テレポートで移動して拾ってもらえるかな?」
 
 ボリスの報告を受け、リュフトがステラにチケット回収を指示する。
 
 「了解ですわ。おいしいところをあやめさんに持っていかれましたから、少しは私も貢献しないと・・・・・・」
 ステラはぼやきながら、移動速度増強のため水玉浮き輪(赤)を頭からかぶり、最後のチケット回収の任務に就いた。
 
 「ところでさぁ、機械の黒チューがどうかしたの?」
 全速力で塔を駆け上がり息を整えているあやめに、エマが腕を組んで横目で尋ねた。
 
 「え?ちょっと、あんたが教えてくれたんでしょ?ねずみがうまい酒を落とすって」
 「何のこと?ボクお酒のことなんて知らないよぉ。ボクは白ねずみと黒ねずみがいっぱいいるって言っただけだよぉ」
 「なんですってーっ!エマちゃん、それどういうこと?」
 「ちょっ、あやめさん、そんな、急にこんなところで・・・・・・」
 
 あやめはエマの両肩に手をかけ、力いっぱい前後に揺さぶっていた。エマは高速シェイクで目を回しているが、にやけながらあやめにされるがままにしている。
 
 「ボリスさん、通訳の出番だぜ」
 ウーゴの一言でボリスは状況を察知した。あやめさん、また勘違いしているのだろう。
 
 キカイノクロチュー、ウマイサケ、ネズミガイッパイ・・・・・・
 そうか!
 ボリスの検索エンジンにある言葉が引っかかった。
 
 「あやめさん、エマさんが言ったのは、お酒のことじゃないよ」
 探偵ボリスの謎解きが始まった。
 
 「だって、キカイの黒チュウって確かに・・・・・・」
 あやめは不満そうにほおを膨らます。
 
 「エマさんは、機械仕掛けのモンスター、ブラックチュー、という意味で、『機械黒チュー』と言ったんだ。それをあやめさんは、喜界島名産の糖焼のことを言っていると勘違いしたんだよ」
 
 ボリスの名訳に一同モヤモヤが晴れ、すっきりとした表情を見せた。
 しかしあやめはがっくりと肩を落とす。
 「えーっ、またあたしの聞き違い?おいしい焼酎が飲めると思ったのにー!」
 あやめの野望はここに潰えた。
 
 
 第2段階――
 
 「ここでの目的は、備え付けの宝箱15個を壊して、中の通行券を15枚集めることだよ。でもね、ちょっと気をつけないといけないんだ・・・・・・」
 初心者4人はメモをとりながら真剣に聞いている。講師役のエマが注意事項を説明している最中である。
 
 「上から2番目の箱を壊すと、箱に仕掛けられた罠が発動して、MAP内にいる全員が別MAPに飛ばされちゃうの。だからね、先に二人だけMAPに入って、罠を発動させるんだ。残りの人はMAPに入らないで待機だよ。先に入った二人が別MAPに飛ばされたら、待機している四人にグルチャで合図してね。合図が出たら、別MAPの二人と待機組の4人、二手に分かれて通行券を集めるよ。それで・・・・・・」
 
 よどみなく流れるエマのレクチャーが突然途切れた。ややうつむき加減で人差し指の先どうしをくっつけて、おしくらまんじゅうをさせながら、あやめを盗み見る。
 
 「ボクとあやめさんで先に行きます。それ以外の人は待機でいいですか?」
 『了解』
 
 エマの仕切りで作戦が開始された。
 
 「あやめさん、行くよ」
 「がってん」
 
 エマとあやめが打ち合わせどおり先にMAPに入る。エマはテレポートで罠が仕掛けられた箱に近づき、箱を叩いた。
 
 ポン、ボシューッ
 
 箱が壊れるのと同時に、エマとあやめの眼前の風景が変わった。二人の目の前には、長い鎖が一本垂れ下がっている。それをたどると、もう一方の先端は遥か上、塔の天井にくくりつけられているようである。
 
 「わなOK」
 
 エマの合図で待機組が一斉にMAPになだれ込んだ。
 
 「おれとステラさんは下から、ウーゴさんとボリスさんは上から集めよう」
 「アイ・サー」
 「OK」
 「了解ですわ」
 
 待機組はさらに二手に分かれて箱を叩く。効率よく通行券を取り出し、サクサクと回収する。
 
 一方、先発組の二人は鎖をよじ登り、鎖から離れた4箇所の足場にある宝箱を壊して通行券を集めていた。
 
 「あやめいきまーっす!」
 宝箱めがけ、あやめは反動をつけて香港映画のアクションスターみたいにダイブした。
 
 (あやめさん、凛々しくてとてもまぶしいよ。なんかドキドキしちゃう)
 エマはほおを赤らめながらあやめを盗み見ている。
 
 「あやめさ~ん、それで最後だから、ボク先に登って上で待ってるね」
 「わかった~」
 最後のチケットを無事回収したあやめは、エマを見上げて返事をすると鎖に飛び移り、さっきとは逆にツインテール少女を追いかけるように登る。
 
 「ふぅーっ!到着っと!」
 あやめは出口のある塔の最上部にたどり着くと深呼吸した。
 
 「さあ、時間もないし、早く行きましょう」
 待っていたエマの前を通り過ぎ、一人出口へ向かって歩き始める。
 
 「待って!」
 
 エマがとっさに、後ろからあやめの袖をつかんで引き寄せた。
 さらにエマは、うつむきながらあやめの腕にがっしりとしがみつく。
 そしておもむろに顔を上げ、すがるような目であやめを見つめる。
 
 「あの・・・・・・あやめさんのこと・・・・・・お、お姉さまって呼んでもいいですか!」
 わずかに唇を震わせながらエマが堰を切ったように叫んだ。
 
 「エマちゃん、若いのに良くできた子ね~。ちゃんと礼儀ってものをわきまえているじゃない。いつだったかヘネシスであたしをババァ呼ばわりしたクソガキとは大違いだわ。そーそー、あたしはまだまだお姉さん。お姉さんでもお姉さまでも、好きなように呼んでもらって構わないわ」
 
 あやめはすっかり気を良くして、ニコニコ顔でエマの頭を撫でながらエマを褒めちぎった。
 しかし、褒められているエマはなぜか表情が曇っている。
 
 お姉さんじゃなくて、『お姉さま』になって欲しかったのに・・・・・・
 覚悟を決めて愛を告白したエマは、あやめの天然ボケの前に、見事肩透かしを食っていたのだ。
 
 「ブログのプロフィール欄、年齢は永遠の17歳って書き換えようかな~っ」
 そんなこととはつゆ知らず、あやめはゴキゲンで17歳教への入信を検討している。
 
 でも、これでボクとお姉さまはほんのちょっとだけど親密になったということだし・・・・・・これからの展開によってはお姉さまと恋人になれる可能性もあるぞ。でへへへへへっ。 
 あやめ攻略の野望をなおも心に秘めながら、エマは愛しのお姉さまと一緒に別MAPをあとにし、仲間達と合流した。
 
 
 第3段階――
 
 塔の罠を見事クリアしたボリス達は、またもや同じような箱が散らばっているMAPに足を踏み入れていた。
 
 「ここの箱の中にはおもちゃのタコモンスター、ブロックパスが、ひとつの箱に3匹ずつ入っている。あと、箱に入っていないブロックパスも8匹うろついている。こいつらを倒して、通行券32枚を集めるのがここでの目的だ。ここの上にある箱は遠距離職のあやめとウーゴさんで担当してくれ。残りの4人はおれと一緒に箱を開けながら下へ降り、一番下のフロアにタコを集めて殲滅する。」
 
 再びリュフトがパーティーの指揮を執る。
 
 「作戦開始!」
 リュフトの号令とともにメンバーが持ち場に散らばった。
 
 『ソウルアロー!』
 
 あやめとウーゴが精神を集中させる。「気」の力で矢を作り出すスキルを発動させたのである。
 黄色く光を放つ「心の矢」をつがえ、狙いを定めてウーゴは弦をはじき、あやめは引き金を引いた。
 
 箱が壊れ、中からブロックパスが3匹ずつ現れる。
 
 「速射しやすくなったよな。ほんと楽に撃てる」
 「同感だわ、心の矢は念じさえすればすぐにセットできるから、本物の矢より早く撃てるわね」
 
 ウーゴもあやめも新しく覚えたスキルの使い心地の良さを実感していた。
 
 アワーッ!アワワワーッ!
 光の矢を浴びたモンスターが断末魔の叫びを上げて次々と倒れていく。あやめとウーゴはほぼノーダメージ。通行券を拾いながら二人ともさらに上の箱を目指して登っていく。
 
 一方、MAPの反対側では、ボリス、リュフト、ステラ、エマが次々と箱を壊していた。
 めいめいに箱から出てきたブロックパスに軽く攻撃を当て、、一番下のフロアへとおびき出していく。
 4人が目的の場所までたどり着いた時には、そこはブロックパスであふれかえり、まさに「タコ風呂」状態になっていた。
 
 「くそ!すし詰めで身動きが取れない!」
 ボリスが身をよじりながら何とか短剣を鞘から引き抜いた。
 
 「きゃぁーっ!」
 エマが金切り声を上げてその場にうずくまる。敵が口から吐いた泡を至近距離で受けてしまったのだ。
 
 「目がしみるよぉ~っ!」
 頭からかぶった泡がエマの目に入り、チクチク痛んで目が開けられない。このままではタコに押しつぶされて墓落ちしてしまう・・・・・・どうしよう・・・・・・
 
 そうだ、あれを使おう。
 エマはタオルで頭と顔を拭いて泡を拭い去ると、カバンの中からふちが波打っている薄いドーナツ状の円盤を取り出した。すかさずそれを頭にはめ込み、円盤を額の生え際の位置で固定する。
 さっき泡をかけたモンスターが、再びエマの頭に泡の塊をぶつける。しかし同じ手は通用しなかった。円盤のひさしは泡を遮断し、エマは顔を上げると涼しげに微笑んだ。
 
 「まさかそれって・・・・・・シャンプーハット!」
 リュフトはウン十年ぶりにお目にかかったお風呂グッズに気をとられ、HPとMP増強スキル、「ハイパーボディ」の効力が切れかかっていることをつい忘れてしまっていた。
 
 「リュフトさん、ハイパーボディかけ直してくださいな!」
 命の危険を感じたステラが慌ててリュフトに注意を促す。
 
 「ステラさん、ごめん」
 我にかえったリュフトがすぐさまスキルをかけ直し、パーティー崩壊の危機は未然に防がれた。
 
 「エマ、大丈夫か?ヒール連発いける?」
 「いけるよ。みんな安心して攻撃して」
 エマの無事を確認すると、リュフトは鉾を上段に構えた。
 
 「スラッシュブラスト!」
 ブロックパスの密集に鉾を撃ち下ろす。モンスターが6匹のけぞりながらさらにフロアの隅へ追い込まれていく。
 
 「サベッジスタブ!」
 密集からこぼれ落ちそうになるブロックパス一匹ずつを高速で斬りつけながら、ボリスも同じ方向へ敵を追い込む。
 
 モンスター達が追い込まれていく先では、ステラが呪文を唱えながら敵を待ち構えていた。
 周りの微粒子が激しくこすれ合い、ステラの体を取り巻くように電界が発生する。それとともにステラのセミロングの髪も逆立つ。
 
 「サンダーボルト!」
 
 ステラが呪文の詠唱を終えた瞬間、貯めこまれた力が一気に放電された。
 
 アワーッ!アワアワアワアワーッ!
 
 ボリスとリュフトにスタミナを削られていたブロックパスがいかずちを受け、黒い煙を体から一筋立ち昇らせながらばたばたと倒れていく。
 続けて3~4回雷を落とすと、ブロックパスは一匹残らず絶命していた。
 
 「ステラさんすごい!」
 束のように敵に襲いかかる稲妻を目の当たりにし、ボリスは感動に打ち震えながらステラに駆け寄っていった。
 
 「かみなりかっこいい~っ!」
 エマもシャンプーハットをかぶったままステラを絶賛している。まるで特撮ヒーローの必殺技を目撃したかのようだ。
 
 「いえ、それほどでもないですわ。火毒魔さんに比べたら火力は低いですから」
 手放しで褒めまくられ、ステラは照れながらもいつものように柔らかく微笑んでいた。
 
 「そういうエマさんもさすがですわ、泡攻撃に備えてシャンプーハットを用意していたのですね」
 「そうそう、ルディクエのベテランは、目の付けどころが違うよね」
 
 続けて今度はステラがエマを賞賛する。ボリスもステラに同感とばかりに称える。
 
 「いや、そういうわけじゃないんだよね・・・・・・ボク、お風呂の時はいつもこれかぶってるんだ。かわいいでしょ?東●ハンズで買ったんだ」
 
 エマはシャンプーハットのつばを右手でつまんで首を横に傾け、左手の人差し指で自分の左ほおを指し示して、えへっと可愛らしくポーズをとった。
 
 「もしかして、お風呂に水鉄砲持ち込んだり、アヒルさんの人形と一緒に入ったりしてる?」
 「もちろん!アヒルさんのいないお風呂なんて考えられないよ」
 
 ボリスは冗談で言ったつもりだったが、エマは何のてらいも無く自分のお子ちゃまキャラ振りを暴露した。
 硬く表情筋を引きつらせて笑うボリスとステラ。その傍らではリュフトが通行券を拾って枚数を確認している。
 
 「リュフトさん!こっちも終わったわ、楽勝よ!」
 
 あやめとウーゴが任務終わらせて降りてきた。
 リュフトはあやめから受け取った通行券を合わせて再度数える。合計32枚。第3段階クリア!
 6人は次のMAPへの入り口へ飛び込んでいった。
(第14話へ続く)
September 15

ボリス in maple 二次転職編を2話連続で投稿しました

 お待たせしました。
 ボリス in maple 二次転職のお話を11話、12話の2本立てで連続投稿しました。
 
 この後のお話のプロットを引きつつ二次転職編のストーリーを構成したため、10日間お待たせしてしまい、申し訳ありません。
 しかし、おかげでじっくりとストーリーを練ることができ、満足の行く仕上がりになりました。
 
 それでは、2話分一気にお楽しみください。

ボリス in maple 第12話

 2次転職 マンボでウー!(後編)
 
 

 待ち合わせ場所のフリーマーケット入口へ到着したボリスは、すでに転職試験を終えた仲間達に温かく迎えられた。

 

 「ボリスさん、どうでした?無事合格しましたか?」

 「うん、おかげさまでシーフになりました。ステラさんはうまくいった?」

 「はい、おかげさまで無事氷雷ウィザードに転職することができましたわ。」

 

 ボリスとステラはお互いの健闘をたたえつつ喜びに浸っていた。

 

 「俺もハンターに転職したぜ。速射が得意な弓使いだ。」

 ウーゴも新調した弓、ライデンを天にかざしてボリスとステラの会話に入っていく。

 

 「あたしはクロスマンボウになったよ!でも、マンボウって面白い職名だよね?」

 

 クロスマンボウ?何だそりゃ?

 はしゃいで新しく就いた職の名を連呼するあやめを見やりながらボリスは首をかしげた。

 

 「ク・ロ~ス・マンボ!チャッチャ、アァ~ッ、ウー!」

 

 マンボの帝王、ペレス・プラードが聞いたら何とコメントするであろうか。あやめは怪しいメロディーを口ずさみ、こちらも新調した弩、山羊弓を携え即興で『転職の舞』を踊っている。

 

 あ~、なるほど。

 あやめの山羊弩にヒントを得たボリスは深くうなずき、踊るあやめの誤解を解きにかかった。

 

 「あやめさん、マンボウじゃなくて、クロスボウマンだよ。」

 「クロス・・・ボウマン?」

 

 「そう、英語で弩のことをクロスボウ(crossbow)って言うんだ。だから弩使いは、クロスボウを使う人という意味で、クロスボウマン(crossbowman)と呼ばれているんだよ。」

 

 「なるほど~。マンボウっておもしろ~いとか思ってたけど、違ったんだ。つまんないの。」

 あやめはボリスの話に感心しながら妙なところでがっかりした。

 

 「でも、クロスボウマンというのもいい響きですわ。、黒酢で膨満感、ゲプッ(はあと)みたいな語感で、なかなか趣深いです。」

 ステラから久々に秘伝のダジャレが飛び出す。あまりの渋さに、一同クスリと笑った後で、う~んと唸りながらダジャレの渋みを噛みしめる。

 

 そこへギルド『けやき海兵隊』の看板を掲げた冒険者がウーゴに近寄ってきた。名札を見ると『ニール軍曹』と書いてある。

 ニール軍曹は馴れ馴れしくウーゴの肩に手をかけながら話しかけてきた。

 

 「君の若い力を、国を守るために生かしてみないか?ギルド『けやき海兵隊』ならそれが可能だ。うちのギルドは上納金を払う必要はないから安心したまえ。パンツと歯ブラシさえ持っていれば入隊できるぞ。必要な物はすべて隊から支給される・・・・」

 

 ニール軍曹は、かつて上野駅で活躍したといわれている、自衛隊のスカウトマン顔負けのトークで一気にまくし立てた。

 

 「俺、もう若くないし、それにチョイ悪オヤジだから指名手配されてるんで、遠慮します。」

 ウーゴは適当な理由をつけてニール軍曹の誘いを丁重に断った。

 

 一方あやめは、ギルド『みやこの部屋』の看板を掲げた和服の女性「みやこ女将」に声をかけられている。

 

 「あなたには素質があるわ。一生懸命稽古して強くなれば、故郷に錦を飾れます。うちのギルドに『入門』すれば、おなかいっぱいちゃんこが食べられるし、昼寝もし放題よ。」

 

 みやこ女将は、淡々とあやめに『入門』を勧めていた。

 

 「失礼ね!見てのとおりあたしは女よ!そんな相撲部屋みたいなところに入れるわけないじゃない!」

 あやめは言葉を荒げて怒りを顕わにする。

 

 「うちは相撲に限らず、格闘技好きの女性も入門していて、みんな毎日稽古して精進していますの。あなたなら大丈夫。きっと強くなれますわ。」

 「いいえ結構です!毎日ちゃんこに昼寝三昧の生活してたら、あっという間に太っちゃうじゃないの!」

 

 物腰柔らかなみやこ女将のスカウトをにべもなく却下し、あやめはぷりぷりと頬を膨らませて仲間の許に戻っていった。

 

 あやめが合流すると、ボリス達がギルド『独占禁止組合』のメンバー「公正取引委員」にスカウトされていた。4人で受講した、『2次転職完全攻略セミナー』で講師を務めていた人物である。

 

 「強くなるためには経験値効率のいい狩り場で狩るのが一番だ。しかしいい狩り場はいつも混んでいてなかなか使えない。だから俺達はみんなが平等にいい狩り場を使えるよう、この世界に新たな秩序をうち建てることを目指している。君達がうちに加入した暁にはレベ上げを手伝ってやろう。狩り場はみんなのものだ。」

 

 レベ上げを手伝ってやろう。狩り場はみんなのものだ。

 「公正取引委員」の魅惑あふれる言葉が4人の頭の中を駆け巡る。

 

 「僕、ここのギルドに入ろうかな・・・・・」

 

 一刻も早く強くなりたいボリスがそうつぶやくと、「公正取引委員」はすかさず4人に尋ねた。

 

 「君達、職は何?」

 

 「シーフです。」

 「クロスボウマン!」

 「人呼んで愛のハンター、ウーゴです。」

 「氷雷ウィザードですわ。」

 

 「何だとぉ!斬りに弩に氷魔だ!?カスで使えねぇ赤字職ばかりじゃねぇか!けっ、お呼びじゃねーんだよ!」

 

 さっきまでの親切さとはうって変わって、「公正取引委員」は、稼ぎの悪い女をなじるヒモ男顔負けの勢いで罵った。

 

 「お前、斬り賊をバカにしたな!今の言葉を取り消せ!」

 

 「カスをカスといって何が悪いんだ。この世界には投げ賊と、それを補佐するハイパーボディ役の槍鉾使い、ヒールとホーリーシンボル役の聖魔、そしてシャープアイを使える弓使いがいれば十分だ。他の職なんて存在する価値もねーんだよ!」

 

 「公正取引委員」はボリスの要求に耳を貸す様子を見せず、右手につけた篭手をちらつかせながらさらに悪態をつく。

 

 「僕はお前みたいに、この世界が投げ賊中心に回っていると勘違いしている奴が一番嫌いなんだ。僕のことはともかく、あやめさんとステラさんに土下座して謝れ!」

 

 普段温厚で天然気味なボリスであったが、この時ばかりは怒りの神が取り憑いたかのごとく猛然と抗議した。

 

 「冗談じゃないわ!ボリスさんに対してもきっちり詫び入れてもらうわよ!」

 「こんな横暴な物言い、到底許せませんわ!」

 

 あやめとステラも怒り心頭で「公正取引委員」に食い下がる。

 

 「ふん、カスはどこまでいってもカスだ。ところで、そこの弓使いの兄ちゃん、お前だったら入れてやってもいいぜ?」

 怒る3人をさらに蔑むと、「公正取引委員」はウーゴを見やり高飛車にスカウトした。

 

 「仲間を悪く言う奴のいるギルドなんてこっちから願い下げだ。」

 ウーゴは落ち着いた声できっぱりと言い切った。

 

 「みんなもここは愛のハンター、ウーゴ様に免じて、場所変えてパーッと騒ごうぜ!」

 ウーゴは仲間の方を振り返ると、おどけながら彼らの怒りを納めさせ、「公正取引委員」から引き離すようにして仲間をフリマの別の一角へ連れていった。

 

 「あーもぅ!せっかく2次転職したのに変な奴に絡まれてお祝い気分に水を差されちゃったじゃないの!ここはウーたん行きつけのエスニックパブでいやな事を水に流しちゃおう!」

 

 ウーゴになだめられて何とか怒りを納めると、あやめは下がっていたテンションを強引に上げて提案した。

 

 「おう!俺に任せとけ!でもワリカンね。」

 あやめの提案にウーゴは胸を叩いて答える。あとは4人でお店に行くだけという雰囲気の中、か細い声がそれをさえぎった。

 

 「あの~、良かったらうちのギルドに入りませんか?」

 見ると、腰から剣を下げたソードマンの少年がこちらの反応を恐る恐る覗っている。

 

 「たった今礼儀知らずのギルドに勧誘されてひどい目に遭ったばかりですわ。あなたのギルドは上納金を要求するのかしら?」

 「いえ、そんなのはありません。」

 ついさっき起こった不快な出来事を思い出し、珍しくつっけんどんに振る舞うステラに、少年はポツリと答えた。

 

 「人数はどのくらいだ?俺は人が多いギルドは嫌だぜ。」

 「僕を含めて2人しかいません。」

 ウーゴの質問にも少年は淡々と答える。

 

 「ここでスカウトしていたら、偶然皆さんと独占禁止組合とのやり取りを目撃したんです。皆さん友達想いで仲が良さそうで、うちに入ってもらえたら、きっとギルドの雰囲気も明るくなると思います。弱小ギルドですが、うちは規約もしっかりと定めてあるので、悪いことをする人は入れません。どうですか?入ってもらえませんか?」

 

 少年はすがるようなまなざしでボリスたちに訴えかけた。

 

 「こじんまりしていて俺好みだ。どうだ?入ってみるか?」

 ウーゴは仲間達の意思を確認する。

 

 「お金もかからないみたいですし、こちらの方も悪い人ではなさそうですので、わたくし加入したいですわ。」

 ステラはそういってあやめとボリスに視線を送った。

 

 「秩序正しく締まった雰囲気で、かつみんな仲良しって感じで、あたし好みかな。」

 「僕も入りたい。全部で6人なら、アットホームな感じで安心だよね。」

 あやめとボリスも加入に前向き。これで決まった。

 

 「ありがとうございます。僕はギルド『RedBlack』でマスターを務めているミカエルといいます。皆さんを心から歓迎します。」

 ソードマンの少年は丁寧にお辞儀をして自己紹介をすると、4人にギルド招待のメッセージを送った。

 もちろん全員即座に招待を受け入れる。

 

 ボリスはギルドウィンドウを開いて確認した。ミカエルとボリスたち4人の名前が列記されている。そして、オフラインメンバーの欄には、副マスター「ガブリエル」と書かれてあった。

 

 「僕はボリス、斬り賊です。よろしくお願いします。」

 「あたしはあやめ、ついさっきクロスボウマンになりました。よろしくね。」

 「俺はウーゴ、職業はハンターだ。よろしく。」

 「わたくしステラと申します。氷雷ウィザードです。お世話になりますわ。」

 

 4人はミカエルに自己紹介をしながらかわるがわるミカエルと握手をかわした。

 

 「こちらこそよろしくお願いします。未成年ですけど、マスターとして一生懸命頑張ります。」

 ミカエルは、はにかみながらも大人の新メンバーにマスターとしての決意を表明した。

 

 「ところで、お近づきのしるしに、みんなであたしの行きつけの韓国料理屋でキムチチゲ食べない?もちろんマスターの分はあたしの奢りよ。」

 「賛成、チゲ鍋久しぶり!」

 あやめの提案にボリスがもろ手を上げて飛び上がった。

 

 「チゲ鍋って何だ?」

 「鍋にはちげ~ねぇ~」

 ウーゴのボケにステラがダジャレで答える。

 

 いい。僕が求めていたのはこんな雰囲気だ。いい人が入ってくれて本当に良かった。

 ミカエルは感動にむせび泣きながら年上のギル員に遅れないように後をついていった。

 

ボリス in maple 第11話

 2次転職 マンボでウー!(前編)

 

 

 「・・・・・・・転職試験は、特別MAPに入って制限時間内にモンスターを倒し、黒い玉30個を集めればほぼ完了です。特別MAPの中にはお店はありませんので、回復薬などの補充は前もって済ませておいて下さい。・・・・・・・」

 

 講師は受講生に動画を見せながら次々と解説を加えていく。受講生も真剣なまなざしでスクリーンに食い入り、所々でメモを忘れない。

 

 ここは7chフリーマーケット10の一角。簡易の壁で仕切られたブースの中。ギルド『独占禁止組合』主催の『2次転職完全攻略セミナー』、只今授業中である。

 

 主催者が新規ギルドメンバー募集の一環として、2次転職受験者を対象に開催したこのセミナーは盛況で、ボリス、あやめ、ウーゴ、ステラを含め30人ぐらいの『受験生』が役に立つ試験情報を求めてここに集まっていた。

 

 宣言どおりカニクエMAPで30レベに到達した4人は、セミナーのうわさを聞きつけ、周到な準備をすべく参加したのだ。

 

 「・・・試験の概要はこんな感じです。転職後の各職業ついて質問がある方は、講義終了後各担当者に個別にお願いします。また、うちのギルドに加入を希望される方は、後日面接をしますのでふるってご参加ください。では、セミナーはこれまでです。お疲れ様でした。」

 

 講義終了。

 間髪入れずにあやめが大きく伸びをした。

 

 「あ~っ、やっぱりお勉強は肩凝るわね~。」

 あやめは座席から立ち上がり、首を横に傾けてカクカクさせながら凝りをほぐす。

 

 「でも、転職試験の概要がわかったから、参加した甲斐があったね。」

 ボリスは大満足と書いてある自分の顔をあやめに向け答えた。

 

 「転職試験の準備はこれでいいとして、何に転職するか決めた?俺、実はまだ迷ってるんだ。」

 

 あやめの後ろの席に座っていたウーゴが立ち上がりながら仲間に尋ねる。他の3人もウーゴにつられて立ち上がり、ウーゴの歩みに合わせて彼の後をついていく。

 

 「確かに、弓と弩、どっちにしようか悩むところよね。一度決めたら変えられないし。攻撃力は弩の方が大きいけれど、攻撃速度は弓の方が速いのよね。・・・」

 

 あやめは歩きながらつい先ほど受けた講義の内容をおさらいすると、わずかに視線を下に向けて考え込んでしまった。

 

 「魔法使いは3つのうちから選ばないといけないですから、さらに頭が痛いですわね。ボリスさんはどうなさるの?」

 「僕は最初から斬り賊志望だから。そのために冒険者になったようなものだし。」

 

 ステラの問いに答えるボリスの記憶から、以前命を救ってもらったあの斬り賊の姿がよみがえる。

 

 「転職のことも悩んじゃうけど、あたしはギルドの話も興味あるのよね。なんか面白そうじゃない?いっぱい友達ができそうで。」

 思案に疲れたあやめが、気分転換とばかりに急に話題を変えた。

 

 4人の周りでは、いくつかのギルドがメンバーを確保するためにチラシを配ったり、有望と見込んだ冒険者に声をかけてスカウトをしていて、否が応でもギルドのことを意識させられる空気になっている。新入部員の勧誘合戦に似た喧騒の中では、2次転職に向けて集中しようとするほうが無理なのかもしれない。

 

 「そうだね。僕もいいギルドがあったら入りたいな。」

 

 仲間も増えるし、ギルドに入っている人だけ参加できるグループクエストもあるみたいだし、なんか楽しそうだよなぁ。

 ボリスもギルド加入後の明るい未来を想像する。

 

 「わたくしは気が進みませんわ。メンバーに上納金を要求するギルドもあると聞いていますし、中にはチーマーみたいに、横狩りやチートを組織的に行っている悪徳ギルドもあるそうですわよ。」

 

 そう言うとステラは眉をひそめた。

 

 「俺は入っても入んなくてもどっちでもい~や。もし入るとすれば、大所帯のギルドは人付き合いとかめんどくさそうだから、小さなギルドがいいな。」

 ウーゴは半ば投げやりに言うと、ポケットから葉巻を取り出し火をつけた。ほのかに甘い煙が漂う中、4人それぞれのギルドに対する感情がすれちがっていく。

 

 「まずは2次転職を済ませてしまおう。ギルドのことはその後ゆっくり考えればいいわけだし。」

 ボリスの一言で停滞しかかった雰囲気が元に戻った。

 

 「そうですわね、2次転職頑張りましょう。」

 ステラの目にも力がこもる。

 

 「気合入れていくわよ!勝ちどきよーいっ!エイッ、エイッ、オーッ!」

 「エイッ、エイッ、オーッ!エイッ、エイッ、オーッ!エイッ、エイッ、オーッ!」

 

 あやめの音頭で勝ちどきを上げた4人はそれぞれの試験会場へと散っていった。 

 

 

 回復薬と手裏剣を補充して、ボリスは一人、カニングシティーの盗賊のアジトへと向かった。

 バー「JAZZ」にもぐるように入っていき、わき目も振らずに師匠の許へ向かう。

 

 「師匠、30レベになりましたので、2次転職試験を受けに参りました。よろしくお願いします。」

 弟子は力強く報告すると口元を引き締めた。

 

 「ボリス、初めてあった時より少し逞しくなったな。」

 弟子の成長した姿にダークロードは暖かく微笑んだ。しかしすぐに厳しい表情に変わっていく。

 

 「この紹介状を2次転職官に渡しなさい。転職官はこの町の北側にある工事現場にいる。」

 ダークロードは手近にある引き出しから中身の入った封筒を取り出し、ボリスに渡した。

 

 「では、行って参ります。」

 「健闘を祈る!」

 

 期待を込めた師匠のまなざしを背に受けて、ボリスは工事現場へ向かった。

 

 

 師匠の言いつけどおり、転職官に紹介状を渡すと、ボリスは試験会場MAPへ転送された。

 気がつくと、H字型の鉄筋がむき出しになった建設中のビルの屋上に立っていた。地上を見下ろすと、コンクリート製の土管とセメント袋が山積みにされている。

 ロープを伝って階下へ行くと、青きのこが現れた。

 

 「ラッキーセブン!」

 2枚投げの手裏剣が敵に命中し、青きのこが倒れた後に黒い玉が残った。

 

 「これを30個集めればいいんだな。よし!」

 拾った玉を確認して荷物の中にしまいこむと、ボリスはさらに下へと進む。

 

 ビタン!

 

 何かが体当たりした。肌にひんやりとした感触が伝わると同時に、ボリスの体が急降下していく。直後、思いっきり硬い地面に叩き付けられた。

 

 「あたたたた・・・・」

 

 ダメージが残る体を奮い起こすと、目の前には転職セミナーの動画で見た白い単眼のトカゲが立っていた。白い息を吐きながらこちらを覗っている。

 コールドアイ。こいつに不意打ちされたんだな。どうりで冷たいわけだ。

 

 ボリスは大急ぎでトカゲから離れ、積んであった土管の上に乗ると手裏剣を放った。

 

 こいつ、意外と硬い!

 

 攻撃は当たっているのであるが、敵はのけぞることなく、がにまた歩きで近づいてくる。

 安置をうまく使って敵をかわしながら、手裏剣をさらに打ち込んだ。

 7、8回の攻撃の後、コールドアイは口から真っ赤な血を吐いて倒れた。しかし黒い玉は落とさない。

 これは思ったよりも時間がかかりそうだ。

 

 「ヴァーッ!」

 「ビェッ!」

 

 モンスターが断末魔の声を上げて次々と倒れていく。

 時折落とされる黒い玉をこつこつと拾い、さらに次のモンスターに向かっていく。

 備え付けの時計の残り時間が、1秒、また1秒と減っていくのを見ながら、ボリスは作業を続けていった。

 

 そして残り時間が10分をわずかに切った時―

 コールドアイが30個目の玉を落とし力尽きた。

 すかさずそれを拾うと、クエスト完了のメッセージが表示される。

 

 「やった!試験クリアだ!」

 

 ボリスは拳を天につき上げ喜ぶ。

 屋上にいる転職官に玉を渡し、それと引き換えに試験の合格通知書を受け取った。

 

 試験会場を出たボリスは、まっすぐダークロードの許へ向かった。

 弟子から合格通知書を受け取った師匠は、満足げにうなずきながら弟子に尋ねる。

 

 「さて、盗賊には2つの道がある。短剣をうまく扱えるシーフと、手裏剣をうまく扱えるアサシンだ。どちらを選ぶかな?」

 

 「シーフになります!」

 

 ボリスは迷うことなく即答した。

 

 「よし!では今日からお前は斬り賊だ。はぁーっ!」

 

 ダークロードはボリスの目の前に手をかざし、念を込めてボリスに力を送った。

 刹那、紫色の光が閃いたかと思うと、ボリスの手の中に青表紙の本が1冊現れた。

 

 「それはシーフのスキルブックだ。今、2次転職のご褒美で、スキルポイントを1だけ振れる状態にしてある。1レベ上がる毎に3ポイントずつ獲得できるから、良く考えた上で任意のスキルに振って、スキルを使いこなしていきなさい。始めのうちは攻撃スキルから振っていくのがお勧めだ。」

 

 「はい、師匠の名を汚さぬよう、誇り高く最強の斬り賊目指して精進します!」

 

 ダークロードに対し胸を張り堂々と決意を述べると、ボリスは篭手をはずし、前もって用意しておいた短剣、リーフクローを装備した。

 早速シーフのスキルブックを開き、サベッジスタブに1ポイント振り、覚えたてのスキルで素振りをする。

 

 天流血斬殺 天流血斬殺 天流血斬殺

 

 短剣を振るたびに派手なエフェクトが、あこがれていたエフェクトが自分の体から放たれる。

 しかし、スキルポイント1では、効率よく短剣を振ることができず、4回斬りつけるのが精一杯だった。

 

 一振りで6回斬りつけられるようになるまでは、手裏剣を離せないな。

 ボリスは篭手を付け直し、ダークロードに暇乞いをして仲間の許へと帰っていった。

 

(第12話へ続く)

 

September 05

ボリス in maple 第10話

 カニクエに挑戦!(後編)
 
 第5段階―
 
 「いよいよ最終ステージです。」
 
 ステラの目に、言葉に、力がこもる。
 
 「ここでは、緑色の一つ目トカゲ、カズアイ、ヘビモンスターのジュニアネッキ、ラスボスのスーパースライムと戦います。それぞれ倒すと通行券を落としますので、それを拾ってリーダーが取りまとめ、クロートさんに渡せばクエスト完了です。」
 
 他の3人はステラの話を一字一句たりとも聞き漏らさまいと耳を澄ます。
 辺りに咳払いひとつも許されない空気が充満していく。
 
 「最初にポータルをくぐるとカズアイが3匹出てきます。カズアイは攻撃力が強いので、マジックガード使用で耐えられるわたくしが倒します。皆さんはここを通り過ぎて、奥のポータルを抜けて下さい。」
 
 ボリス、あやめ、ウーゴはメモをとり始めた。作戦の説明はさらに続く。
 
 「その先には、倒すのに高い命中率が要求されるジュニアネッキが6匹います。皆さんはこれをを倒してください。ジュニアネッキが落とした通行券はわたくしがまとめて拾いますので、皆さんは拾わないで下さい。倒し終わった人から、・・・」
 
 ステラは静かに地図上の一点を指し示した後、
 
 「・・・ここのポータルを抜けて一番奥にいるスーパースライムを叩いてください。」
 
 見慣れたものとは若干風体が違うスライムが描かれた、レア物のモンスターカードを3人に見せた。
 
 こいつがラスボス―
 ボリスは敵の大将の顔を網膜に焼き付ける。 こいつを倒せば1次職冒険者として一人前と認めてもらえる。
 あやめ、ウーゴも賞金首の手配書を見るかのような目で食い入った。
 
 「スーパースライムはジャンプで移動して地震攻撃を仕掛けてきます。地震攻撃はジャンプで回避可能です。MAPの端に追い詰められたら大きなダメージを食らうので、追い詰められる前に反対側に回りこんで下さい。質問はありませんか?」
 
 ステラは説明を終えると硬い表情のまま3人の様子を伺った。ダジャレお嬢の顔はすっかり影を潜めている。
 ボリス、あやめ、ウーゴは自分のメモ見ながら作戦行動を脳内でシミュレーションしていく。
 
 「特に無いです。」
 「大丈夫、頭に叩き込んだわ。」
 「俺も問題ない。」
 
 3人のグループ員はそう言うと口元を引き締めて大きく頷いた。
 ステラは全員の覚悟を受け止めた。彼女の目に必勝への執念が宿り、光を放つ。
 
 「それでは今から作戦開始です。突撃!」
 
 ステラは合図すると真っ先に戦場へ飛び込んだ。ウーゴ、あやめ、ボリスの順に後に続く。
 向こう側から緑色をしたものが高速ガニマタ走りで迫ってくる。カズアイだ。
 
 「皆さんは奥へ!予定通りここはわたくしが!」
 ステラはマジッククローで援護しながらボリスたちの通り道を確保する。
 ボリスたちがポータルをくぐった。
 
 「3匹まとめてとどめですわ!ぜんた~い、とどめっ!」
 久々のダジャレをセットにして、ステラのマジッククローが炸裂する。
 
 まず1匹。
 近づかれた時にもう1匹。
 体当たりされた後に振り返って最後の一匹にとどめを刺した。 
 
 全然まとまってないですわね。マジッククローは単体攻撃魔法ですし。座布団2枚持ってかれそうですわ。
 
 自分にツッコミを入れながら通行券を3枚拾い、ステラは仲間の許へ駆け足で向かっていった。
 
 一方、ジュニアネッキ討伐組は手間取っていた。
 
 「ちっ、的がちっちゃくて狙いにくいぞ」
 「近すぎて矢が打てないじゃないの!」
 
 ウーゴとあやめは敵の独特な動きを読めずに苦戦していた。
 
 「僕が6匹集めるから、あやめさんとウーゴさんはその隙に敵との距離を離して矢を集中させて!」
 
 ボリスはヘビモンスターにジャンプして手裏剣を投げ、敵を引き付ける。
 矢を打つスペースを確保したあやめとウーゴは敵の密集に集中砲火を食らわせる。
 ジュニアネッキは矢と手裏剣を受けまたたく間に倒され、後には通行券が6枚残った。
 
 「追いつきましたわ!こちらもちょうど倒し終えたところみたいですわね」
 3人が振り返ると、ステラがいた。通行券を拾いながら近づいて来る。 
 
 ズーン、ズーン、ポヨヨ~ン―
 
 突然、今まで聞いたこともない、なんとも形容し難い地鳴りのような音が辺りに響き渡った。
 
 「音の主はスーパースライムです。全員、突撃!」
 ステラの指示のもと、パーティーがポータルをくぐると・・・
 
 目の前に現れたのは身の丈の3倍ほどもある巨大なゼリー状の生き物。
 
 「撃て~っ!」
 4人は近づかれる前に先制攻撃を仕掛けた。攻撃は全て当たっている。こちらの命中率は足りているようだ。しかし敵はノックバックしない。
 ラスボスはバウンドしながら近づいてくる。
 突然、敵の目が光った。
 
 ポヨヨヨ~ン!ズーン!ズーン!
 
 スーパースライムがジャンプすると、立っていられないほどの振動が4人を襲う。
 作戦会議どおりにジャンプした。
 何かの魔法のようにさっきの振動から解放され、全くダメージを受けない。
 
 いける、これはいける。
 初陣の3人は勝利への手ごたえをつかんだ。
 
 ベチャッ!グチャッ!
 
 敵の体から緑色の粘液が一面に飛び散る。
 
 「スラ汁垂れてきた!このヌルヌル意外と気持ちいいかも!」
 「そのスラ汁って言い方やめてっ、響きがばっちぃ~」
 
 天然のローションを浴びてムフフなウーゴ。ジト目でツッコミを入れるあやめ。
 
 スーパースライムがスライムを数匹召喚した。あっという間に囲まれて、手裏剣と矢が撃てなくなる。
 
 「雑魚は任せてください!」
 ステラがマジッククローでスライムを処理した。その隙にボリス、あやめ、ウーゴはスーパースライムの背後に回りこみ、ボスを挟み撃ちにする。
 
 「敵が弱ってきた!あと一息!」
 ボリスが仲間を鼓舞する。
 
 「往生せぇやーっ!」
 「砕けろゼラチン!」
 「いえ、こんにゃくゼリーかもしれませんわ!」
 ウーゴ、あやめ、ステラも最後の仕上げにかかった。
 
 そして・・・
 
 巨大スライムが消えていく。
 
 「やったわ!」
 「カニクエ初クリア!」
 「スラ汁さいこー!」
 
 歓喜の声が暗い森の中に響き渡った。
 
 4人はもと来た道を逆に進み、クエスト完了を報告する。
 
 
 LEVEL UP!
 
 
 パーティー全員が光に包まれ、そろって29レベになった。
 
 「おめでとう!」
 「2次まであと1レベだ!」
 2次転職がいよいよ現実味を帯びた目標として意識される。
 
 「こうなったら、全員30レベになるまでカニクエをやり続けよう!」
 「お~っ!」
 ボリスの提案に皆拳をつき上げ賛成した。
 
 2次転職可能まで、あと経験値95000―
 カウントダウンが、今、始まる。
 
August 30

ボリス in maple 第9話

 カニクエに挑戦!(中編)
 
 

 第3段階―

 

 ボリスたちが坂道を上っていくと、そこには筒のようなものが乗っている足場があった。足場は楕円を描くような配置で5個存在し、筒の中からはネコが顔を覗かせていた。

 傍らにはどこをどうやって来たのか分からないが、先ほどもいたクロートが控えている。どうやら彼女はパーティーの水先案内人としての役割を果たしているようだ。 

 

 「ここもさっきと同じ要領で3箇所の足場に乗って、正解を当てると次のステージへ進むことができます。足場に乗っているネコの数を元に足場に番号を付けて呼びます。わたくしの指示に従って足場に乗ってください。まずはボリスさん1番、あやめさん2番、ウーゴさんは3番の足場に乗ってください。」

 

 「了解」

 「ガッテン!」

 「アイ・アイ・マーム」

 

 ステラから指示を受け、ボリス、あやめ、ウーゴはそれぞれ足場に乗った。

 「そのまま動かないで下さいね、では、いきます。」

 ステラは3人とも指定した足場に乗っかっているのを確認した上で、クロートに話しかけた。が、不正解だった。

 

 「あやめさん、ウーゴさんは動かないで下さい。ボリスさんだけ時計回りにひとつ移動して下さい。」

 「ここでいいの?」

 「OKですわ。では、いきます」

 ステラは再度正解を確認する。またもや不正解。

 

 「この要領で、時計回りの方向に先頭の人が移動し、その都度答え合わせをします。不正解であれば先頭がもうひとつ移動します。先頭の人が2回移動して最後尾の人の後ろについたら、新たに先頭になった人が時計回りにひとつ移動します。これを繰り返せば、最悪でも10回目で正解を出すことができます。 皆さん、お分かりになって?」

 

 「了解!」

 なるほど、これなら間違えずに効率よく正解にたどり着ける。

 ボリスが隣の足場に移動しながらふむふむと納得していると・・・

 

 「フシューッ!」

 足元でネコが一匹、背中の毛を逆立ててボリスを威嚇してきた。

 

 「怖くないよ。よしよし。」

 話せば分かる。僕らは同じホニュウ類、アミーゴだ。ボリスはお近づきのしるしにネコののど元をなでようと手を差し延べた。

 

 「ミャーゴ!ミギャギャギャギャーッ!」

 しかしボディー・ランゲージは通じなかった。ネコは前足をくいくいっと動かしてタイミングを計ると―ボリスに高速ネコパンチをお見舞いした。

 

 「いでっ!」

 見ると手の甲には引っかきキズがあり、わずかに血がしたたっていた。ネコはボリスをにらみつけながら出方を伺っている。

 

 このままじゃクエストどころじゃないな・・・そうだ、あれを使おう。

 

 ボリスはMTSで手に入れたペットボトルを取り出した。

 この世界では、フリーマーケットとは別に、冒険者同士がGMの仲介により、異世界の通貨「エン」を用いてものを売り買いする市場、MTSが存在している。

 ボリスはこのペットボトルを将来使うべき武器として、大枚はたいてここから買っていたのだ。

 

 ボリスはペットボトルに、腰からぶら下げていた懐中電灯の光をかざし、ネコにその反射光をちらつかせた。

 ネコはまぶしがったかと思うと急におとなしくなる。しばらく身じろぎしたあと、ネコは静かに足場から逃げ去った。

 

 「ボリスさん、大丈夫ですの?―大変、血が出てる!早速手当てしますわ。」

 ステラはボリスに駆け寄ると赤チンを取り出した。ボリスの傷口に塗りたくってふーふーする。

 

 「ステラさん、そんなにいっぱい塗らなくても大丈夫だよ。っていうか、手の甲全部真っ赤だし・・・・」

 流血シーンに慣れていないステラは動揺のあまり、ボリスの手の甲をもみじか紅しょうがと見まがうくらいに染め上げていた。

 

 「すみません、わたくし負傷による流血をほとんど見たことがなくて、だから加減が分からなくて、あの・・・ご迷惑でしたか?」

 ステラは某金融会社のCMで一世を風靡したチワワのまなざしでボリスを見上げた。 

 

 「いや、迷惑だなんてとんでもない。僕はもう大丈夫だから、クエストに戻りましょう。」

 ボリスの言葉にステラはにこっと微笑み、さっきとは打って変わってしなやかにきびすを返すと、元いた場所に戻っていった。

 

 ステラさんっていまだに良くわかんないとこがあるけど、この目で見つめられるとお手上げだよな・・・。ドジお嬢に萌える男の性なのか・・・。

 真っ赤に染まった自分の手を眺めながらボリスはささやかな幸せに浸っていた。

 

 「答え合わせいきます」

 ステラはクエスト遂行モードに戻るとクロートに正解を確認した。

 

 CLEAR!

 

 3回目で運良く正解を引き当て、4人は次のステージへと向かう階段を上っていった。

 

 

 

 第4段階―

 

 ここには上段に1個、中段に2個、下段に3個、合計6個の樽がピラミッド上に積まれている。樽にはそれぞれ上から1、2、3・・・と番号が書いてあった。

 ステラの説明によると、6つの樽の中から3箇所を選んで樽に乗り、正解を当てれば次へ進めるのだという。

 

 「6個のものから3個取り出したときの組み合わせを当てればいいんだろ?つまり、C=(6×5×4)/(3×2×1)=20 つまり正解と不正解あわせて20通りあるから、最悪20回目で正解にたどり着けるってわけだ。違うかい?」

 

 ウーゴからいきなり知性の光が飛び出した。

 

 「そのとおり!ご名答ですわ、ウーゴさん!数学お得意ですの?」

 ステラは手放しで絶賛した。

 

 「まぁな、いろいろ訳ありでね、今じゃ冒険者やってるってわけだ。」

 そう言うとウーゴは目を伏せて葉巻に火をつけた。

 

 訳ありってどういうワケですか聞いてもいいですかそれともオトナのジジョーというやつですか・・・

 

 ウーゴは照れ隠しで言ったのであるが、変なところに細かいボリスは訳ありと言う言葉に過剰反応を示し、想像の翼をあさっての方向に拡げていた。

 

 「理屈は良くわかんないけど、20回やれば誰でも正解できるってことでしょ?とっとと始めちゃいましょ!」

 あやめはそう言うと1番上の樽に登っていった。

 

 「ではウーゴさんは2番、ボリスさんは3番の樽に乗ってください。」

 ステラの指示どおり、ウーゴとボリスは樽に登る。

 ステラが答え合わせをすると、不正解だった。

 

 「次は124の組み合わせをテストします。ボリスさん4へ移動です。」

 ステラは乗るべき樽を番号を連呼して指示した。ボリスだけ4番の樽へ移動し、ステラが正解かどうか確認する。

 不正解。

 

 「125」「126」「134」・・・

 「246」「256」「345」・・・

 

 ステラは次々と指示を送っては答え合わせをした。しかしなかなか正解が出ない。

 

 これは・・・はずれの456?まさか飛ばしてしまった組み合わせがあるとか?

 ステラの頭に最悪の事態がよぎる。もしそうなら最初からやり直さなければいけない。そうなれば残り時間は明らかに足りない。時間がない。

 

 「456」

 ステラは手に汗を握り締めて指示を出した。

 当たれ!当たれ当たれ当たれ当たれ当たれーっ!

 パーティー全員の祈りが共鳴する。

 

 

 CLEAR!

 

 

 20回目でやっと正解が出た。

 

 「飛ばしていなくて良かったですわ。」

 ステラは安堵の表情を浮かべてふぅ~っと深呼吸をした。

 そして4人は仲間の労をねぎらいながら、最終ステージへの道を進んでいった。 

 

(第10話へ続く)
August 28

ボリス in maple 第8話

 カニクエに挑戦!(前編)
 
 「皆さん、補充は済みましたか?」
 ステラがグループ員に確認した。経験者ということで、今回リーダーを任されている。
 ここはカニングシティーの下水管前。今まさに、カニング・グループクエスト、略してカニクエに挑もうとしている。
 
 「大丈夫!」
 「準備OK」
 「いつでもいいよ」
 
 グループ員のボリス、あやめ、ウーゴはすでに臨戦態勢に入っている。
 3人にとっては初めてのグループクエスト。達成すれば、冒険者として胸を張れる最初の経歴を積むことができる。
 否が応でも胸が高鳴り、不安と緊張でくちびるが乾く。
 
 
 「では、行きます!」
 ステラはこのクエストを仕切っているラケリースという女性からクエストを引き受けた。
 
 目の前の景色が急に暗転しかかと思うと―
 沼地に変わっていた。
 辺りを見回すと、後ろには水門があった。どうやら下水管の向こう側に出たらしい。中がこんな風になっていたなんて想像もつかなかった。
 
 「皆さん」
 ステラの呼びかけに3人は再度戦闘モードに切り替わる。
 
 「このMAPの突き当たりにいるクロートに話しかけると、リーダー以外の3人にクイズが出題されます。正解と同じ数だけクーポンを集めて下さい。クーポンは上にいるアリゲーターを倒すとドロップします。クーポンを集め終わったら、再度クロートに話しかけて、集めたクーポンと通行券を交換してもらってください。交換してもらった通行券はわたくしが最後に集めます。何か質問はありますか?」
 
 ステラは簡潔にここでのミッションを説明した。
 
 「何か時間制限があるみたいだし、さっさと始めようぜ。」
 「分からないことがあったら、その都度ステラさんに聞いたほうが早そうね。あやめ、いっきま~っす!」
 
 ウーゴとあやめは奥にいるネグリジェお姉さん―もとい、古代ギリシャ風の衣装をまとった女性、クロートめがけて駆け出した。
 
 「待って、置いていかないでよ~」
 ボリスが遅れまいと追いかけた。4人の中で最も回避率の高いはずのボリスであるが、戦っていないときは一番ドンくさかった。
 
 ボリスがクロートの前に到着すると、クロートは挨拶もそこそこに本題に入った。
 「問題です。戦士に転職するために必要なSTRの値と同じ数だけクーポンを集めて下さい。」
 
 ええと・・・たしか・・・35、35だ!
 
 「問題の正解をわたくしに報告して下さい・・・マジッククロー!」
 
 ステラは3人に促した。すでに足場に登り魔法使いのスキル、マジッククローでアリゲーターを倒している。もともと魔法使いに有利なクエストである上、経験者の強みを生かし、アリゲーターの硬い皮膚に2すじの爪あとを刻み込んで次々となぎ倒していく。
 
 「弓使いが転職に必要なDEXだから・・・25でいいのよね?25枚クーポンを集めればいいってこと?」
 「あやめさん正解ですわ。早速お願いします。」
 「了解!」
 
 あやめは報告を済ませるとロープにつかまりよじ登り始めた。どうやら問題は一人ずつ違っているらしい。
 
 「魔法使いに転職するために必要なレベルは?って、転職は10レベ以上だろ?」
 「ウーゴさん、正解は8レベです。クーポンを8枚集めて下さい。」 
 「魔法使いは8レベでできるんだ・・・アイ・アイ・サー!じゃなかった、アイ・アイ・マーム!」
 
 ウーゴはへぇ~、と感心したあと、ステラに向かっておどけて敬礼した後でアリゲーターの群れに向かった。
 
 「ステラさん、僕は35です。」
 「あら、はずれを引きましたわね・・・大変ですが頑張りましょう。わたくしもお手伝いします。」
 
 良くわかんないけど、はずれなんだ・・・
 
 はずれと言われると何となくいい気がしないのであるが、これ以上考えてもしょうがない。
 
 「ラッキーセブン!」
 
 ボリスは安置に陣取ると、完成した二枚投げでアリゲーターに襲い掛かった。
 しかし、ワニモンスターはノックバックしない。じょうろで水を掛けてもらっているような表情をしている。
 
 「当たっているはずなのに、なんてタフなんだ!何とか言え!」
 
 いらだったボリスはむきになってさらに手裏剣に力を込めた。
 
 グエッ!ゲア゛ーッ!
 
 突然苦悶の表情を浮かべたかと思うと、ワニは断末魔の声を上げておなかをさらした。
 
 何だ、恐竜並みに鈍いだけなんだ・・・ヒヤヒヤさせるなよ。
 ボリスはワニが落としたクーポンを拾いながら胸をなでおろした。
 
 時間がない、急いで集めなきゃ・・・
 一息つく暇もなく、ボリスはロープをさらに登り、タフなワニを手裏剣で叩いていった。
 
 「俺はミッション完了!ふぅ~っ、こんな硬いやつ初めてだぜ!」
 見るとウーゴが、安置にリラックスチェアを拡げて葉巻をくゆらせながら一息ついていた。
 
 「ウーゴさん、クーポンを通行券と交換してもらったら、あやめさんとボリスさんを手伝って下さい。」
 「りょ~かい!」
 
 ウーゴは左手に銃を仕込んだあの宇宙海賊ばりに、シブく返事をすると葉巻を咥えなおして椅子をたたみ、クロートのところへ通行券を受け取りに行った。
 
 「あやめさん、あと何枚ですの?」
 「あと10枚」
 「下に7枚落としてありますので、拾ってくださいな。」
 「ありがとう!ステラさん!」
 「ボリスさんはあといくつですの?」
 「僕はあと20」
 
 あと23枚ですわ。ということは・・・
 
 「皆さん、一人当たりあと6枚集めてくださいな。ウーゴさんもお願いします。」
 通行券を受け取って戻ってきたウーゴを見やりながら、ステラはノルマを4人ほぼ均等に割り当てた。
 
 「了解!」 
 これで時間内に完了する見通しがついた。パーティー全員の表情がぱっと明るくなったその時―
 
 
 
 ブンッ!―ベチッ!
 
 
 
 何か重量感のあるものが空を斬り、一瞬にして湿り気のある鈍くて嫌な音が響き渡った。
 
 
 
 「ぎゃぁぁーーーーっ!」
 
 
 
 ステラが指示を出している隙を突いて、アリゲーターが尻尾で彼女のみぞおちに強烈なボディブローをお見舞いしたのだ。
 気がついたら足場から落ちていた。内臓ごと吐き出してしまいそうな痛みに襲われる。
 
 「ステラさん!」
 ボリスはステラの許へ駆け寄った。
 
 「ステラさん!大丈夫!立てる?」
 小柄な令嬢を起こそうと手を差し伸べる。
 
 「大丈夫・・・ですわ・・・ちょっと息が苦しいけど、マジックガードをかけてますので、平気ですわ。」
 ステラはボリスの手を借りずに自力で立ち上がると、柔らかく微笑んだ。
 
 「大したことなくて良かった!」 
 「それより狩りに戻りましょう!あと一息ですわ!」
 
 ステラとボリスはラストスパートをかけ、今まで以上の勢いでアリゲーターに立ち向かっていった。
 
 「サイコガン発射!曲がんないけど!」
 ウーゴが葉巻を咥えながらダブルショットを打ち込んでいく。
 
 「あたしは速射よ!ヘモスさまぁ~っ!」
 あやめはいつも見ている韓流ドラマのまねをして、矢の束を地面に突き刺し、それを2本ずつ素早くつがえ、こちらもダブルショットでワニをなぎ倒していった。
 
 「6枚完了!」
 「わたくしも完了ですわ!」
 ボリスとステラがほぼ同時に6枚集め終えた。
 
 「あたしも完了!」
 「俺まだ5枚しかもってない!」
 あやめとウーゴも少し遅れて報告した。
 
 「ウーゴさん、合計23枚なので完了です!皆さんクロートの前に集合して下さい。」 
 4人はクロートの前に集合し、クーポンをあやめに25枚、ボリスに35枚分配し、それぞれクロートに提出した。
 
 「1,2,3・・・・・・・はい、確かに規定数ちょうどです。お疲れ様。」
 クロートがねぎらいの言葉と共に、2人に1枚ずつ通行券を手渡した。
 
 「では、皆さんの通行券を回収します。」
 ステラは3枚の通行券を取りまとめ、再度クロートに手渡した。
 
 もらったり渡したり、結構めんどくさいな。
 
 ボリスが心中ひそかに文句を言っていると、目の前に茶色の大きな文字が現れた。
 
 
 CLEAR!
 
 「やったー!」
 ボリスはさっきの不満なんて最初からなかったかのようにガッツポーズを作って喜んだ。
 
 「お!これでやっとクリアか」
 「乙~」
 ウーゴとあやめはお互いをねぎらいながら握手した。
 
 「お疲れ様です。第1段階はこれでクリアですわ。あと4段階ありますので、サクサクいきましょう!」
 「おーっ!」
 ステラが高々と拳をつき上げて叫ぶのに続いて、ボリス、あやめ、ウーゴも勝どきを上げながら、次のステージの入り口に飛び込んでいった。
 
 
 
 第2段階―
 
 4人の目の前には、上段に2本、下段に2本、合計4本のつたが垂れ下がっていた。
 
 ステラはつたを見上げてたたずむ3人に向かい合うと、説明を始めた。
 
 「このつたは次のステージへの入り口の鍵になっています。4本のつたのうち3本が本物の鍵で、残りの1本はダミーです。鍵の役割をしている3本のつたに同時にぶら下がれば鍵が開く仕組みになっています。つまり、4本のつたのうち、本物の3本を見つければクリアです。」
 
 「でも、どうやって見分けるの?」
 あやめが不安げに尋ねた。
 
 「最初は適当に皆さんで一人一本ずつぶら下がって下さい。不正解だった場合は時計回りの方向でぶら下がるつたを変えます。最悪4回繰り返せば正解にたどり着きます。」
 
 「なるほどぉ~っ!ステラさんあったまいい~っ!」
 「持ち時間もったいないから、ちゃっちゃと始めようぜ!やりながら考えよう!」
 
 一人感心するあやめをせかすように言うと、ウーゴは向かって右下段のつたにぶら下がった。
 ボリスは向かって右上段、あやめは左上段にぶらさがった。
 
 「では正解を確認します。皆さん準備はよろしくて?」
 『OK!』
 
 ステラは3人がぶら下がっているのを確認すると、傍らにいるクロートに問い合わせた。
 
 ビョ~ン―
 アメリカのギャグアニメに出てきそうなコミカルな効果音と共に『× WRONG!』の文字が大きく目の前に現れた。
 
 「時計回りに移動をお願いしますわ。」
 ステラの指示のもと、グル員はそれぞれ持っていたつたを離して飛び降り、次のつたにぶら下がる。
 
 ウーゴは足元を確認しながらつたを登っていた。不意に、頭上に何か柔らかいものが当たるのを感じた、と思うと・・・
 
 
 ガツッ!
 
 
 脳天に何かの直撃を食らい、つたから落とされた。頭蓋骨をえぐるような激しい痛みを感じる。頭がクラクラする。
 
 
 「ちょっと!あたしのスカートに顔突っ込まないでよ!このヘンタイ!」
 
 見上げると、あやめがスカートのすそを手で押さえながら顔を真っ赤にして怒っている。
 
 「あやめ、お前だけ反対回りだぞ!自分で間違えた上にいきなりケリ入れやがって・・・・・・痛ってぇーっ!」
 
 ウーゴの抗議にあやめは慌ててボリスを探す。確かにボリスは自分と反対方向に移動していた。
 
 「あたし・・・間違えちゃったみたい♪・・・あはははは、ごめんちゃい♪」
 あやめはさっきとは別人のようなぶりっ娘モードで自分の失敗を笑ってごまかすと、ウーゴから逃げるようにして向かって右上のつたにぶら下がった。
 
 「いい歳こいてぶりっ娘もないだろう・・・聖●ちゃんじゃあるまいし。」
 ウーゴは半ば呆れて小声でつぶやいた。
 
 「何か言った!?」
 あやめはデビルイヤー並みの地獄耳を働かせてウーゴのつぶやきを聞きつけたのか、そう叫ぶと切れ長の目をさらに鋭く尖らせてウーゴをにらみつけた。
 
 「いや、何でもないです・・・」
 逆らったらデビルビームで殺される―
 命の危険を感じたウーゴは急にトーンダウンして、おとなしく向かって左下のつたに改めてぶら下がった。
 
 「準備はよろしいですね?いきます!」
 3人の準備が調ったことを確認して、ステラは再度クロートに正解を確認する。
 
 ポロロロロロロン―
 
 天使の竪琴のような音楽と共に、『CLEAR』の文字が4人を祝福した。
 
 「やった、正解だ!」
 「鍵が開いた!」
 「おつかれ~」
 
 喜びとねぎらいの言葉が自然と口をついて出る。
 
 「急ぎますわよ。」
 ステラの言葉に気を引き締めなおし、4人はさらに先へ進んでいった。
 
(第9話へ続く)
August 26

ボリス in maple 第7話

 キモアバ選手権(後編)
 
 「クリティカルのレベが上がってくると、狩りやすくなるな。」
 「ほんと、前より楽に狩れる。この勢いでじゃんじゃん倒すわよ!」
 「うぉりゃ~っ!食らえ!ダブルショットじゃぁ~っ!」
 
 あやめとウーゴはバトルボウに矢二本をつがえ、レベルアップしたスキルの手ごたえを感じつつ、イケイケノリノリでゾンビきのこを次々と仕留めていた。
 ここはきのこ栽培農場。「アリの巣2」の下方にあるポータルを抜けたところに最近新たに追加されたMAPである。
 60分の滞在制限があるのだが、「アリの巣1~4」MAPより狭く、起伏も少なく半安置も何箇所かあり遠距離職にとっては狩りやすい場所になっているので、あやめとウーゴはスリーピーに来てからずっとここで狩っている。
 
 ビェッ!ブシュッ!
 ビェッ!ビェッ!ブシュッ!ブシュッ!
 
 怪しげにジャンプしながら近づいてくる黄色いお札がついたきのこも、てくてく歩く頭がトゲトゲのきのこも、あやめとウーゴの矢を受けてバタバタと倒れていく。
 その狩り姿は、遠くから見れば、はるか昔に高句麗を建国したという伝説の弓使いがそのまま乗り移ったかのようであった。
 
 しかし―
 近くで見た彼らは、
 
 『海パンメガネブタ』と
 『怪奇!国籍不明のハイレグ京劇女』であった。
 
 
 
 「あっ、いたいた、お~い!あやめさ~ん!ウーゴさ~ん!」
 
 二人の怪人が呼ばれて振り返った先にいたのはボリスであった。
 
 「ひどいよ~、僕だけ置いて先に行かないでよ~」 
 「おっ、来た来た。迷わないで来られた?」
 「あやめさんをサーチしたから、すぐにわかったよ。」
 「ボリスさん、一番下の段お願い。俺達じゃきつい。」
 「OK!狩りまくるぞ~っ!」
 
 ボリスはおむつエプロン姿で安置の無い再下段に飛び込んだ。
 ボリスがグル狩りに加わり、きのこたちの湧きはさらに多くなったが、ラッキーセブンを完成させ、命中回避増強スキルであるシックスセンスも完成間近であるボリスの敵ではなかった。
 
 (見える・・・・敵の動きが見える!)
 
 これが盗賊の回避・・・野生のカンが研ぎ澄まされていく感じだ!
 
 ボリスはゾンビきのこの複雑な動きを見切り、密集の中をすいすいとかわして後退しながらジャンプして手裏剣を投げまくった。
 ゾンビきのこがボリスの手裏剣攻撃の前になす術も無く倒れていき、あとには白い薬が少々と、大量の「死者の符籍」とツノきのこの傘、そして小銭が残った。
 セコいボリスはすかさずドロ品とメルを拾うと、再び湧いてきたきのこたちを倒していった。
 
 30分後―
 
 ボリスの体から突然緑色の光が発したかと思うと、その光はアルファベットを形作っていく。
 
 LEVEL UP!
 
 ボリスは26レベになった。これでシックスセンスも20レベになり、完全に会得した。
 さらに雲隠れスキル、「ダークサイト」も使えるようになった。ボリス憧れの斬り賊最強スキルのひとつである「暗殺」の基礎になるスキルである。
 また一歩、ほんの少しだけど、最強に近づいた。あの人にも、少しだけ―
 
 感慨に浸るボリスのレベルアップに気づいたあやめとウーゴが、大急ぎでボリスに駆け寄ってきた。
 
 「ボリスさん!レベルアップおめでとう♪」
 「よっしゃ!拡声器で叫んだるで~!」
 「あたしも叫ぶぅ~!」
 
 ウーゴとあやめはお祝いの言葉をボリスに贈るために拡声器を取り出した。このアイテムを使うと、この世界にいる冒険者すべてに自分のメッセージを聞かせることができる。
 
 『あやめ CH4:ボリスsレベUPおめでとう!スリーピーでキモアバ選手権開催中!』
 『ウーゴ CH4:ボリスsおめでとう!ボリスsも俺らも参加しています!』
 『あやめ CH4:ボリスsおめでとう!あたしたちのキモい狩り姿をスクショに撮りまくろう!』
 『ウーゴ CH4:ボリスsおめでとう!キモアバスクショをスリピホテル、スリピ釣り場、アリの巣屋台に出せば、今ならお値段2割引!』
 
 あやめとウーゴはお祝いの言葉を力いっぱい叫んだ。しかし、それと抱き合わせで、自分達がキモアバを着て狩りをしていることをことさらに強調する言葉も叫んでいた。
 
 「あやめさん、ウーゴさん、お祝いありがとう!でも・・・何で僕らがキモアバを付けてる事をわざわざ宣伝してるの?できればやめて欲しいんだけど・・・」
 仲間達がお祝いしてくれることは、素直にうれしい。でも、あえてキモアバの事を叫ばなくてもいいじゃないか―
 ボリスは戸惑いをそのまま二人にぶつけた。
 
 「これもキモアバ選手権の競技の一環だよ。俺、説明してなかったっけ?」
 「いっけなぁ~い!あたし、ボリスさんのエントリー手続きをしたときに受け取った拡声器、まだ渡してなかった!」
 「どういうこと?」
 
 話がさっぱり見えないボリスは、クエスチョンマークを頭上に乱発して戸惑っていた。
 
 「キモアバ選手権参加者は、1日4回、拡声器で主催者のお店のCMと、キモアバ選手権のCMを流さなければいけない事になっているんだ。」
 「何でまたそんな手間のかかる事を?」
 「前にも言っただろう?このイベントはスリーピーウッドのお店が合同で企画した町おこしイベントだって。早い話が、キモアバ選手権開催の目的は、スリーピーウッドのお店を宣伝する事というわけだ。」
 
 ボリスの問いにウーゴが答えた。
 
 「期間中にキモアバ選手権参加者の狩り姿を写したスクショを主催したお店に提出すると、お店の商品とサービスが全部2割引になるのよ。つまり、スクショが割引券の代わりになるってこと。」
 
 あやめもボリスに拡声器を手渡しながらウーゴの説明を補足した。
 
 「それってもしかして・・・僕らタダ働きでサンドイッチマンとか、ちんどん屋みたいなことをやってるってこと?」
 「そのとおり!」
 
 賞金10万メル払う真の目的はここにあるって事か・・・
 
 腰に手を当てて自信満々に解説したウーゴを見やりながら、ボリスは盛大にため息をついた。 主催者も商売人の端くれというわけだ。
 そういうことなら、叫ばざるを得ないよね。
 
 ボリスはあやめから受け取った拡声器を取り出し、お祝いのお礼と即興のCMコピーをワールド全体に向けて叫んだ。
 
 『ボリス CH4:お祝いありがとう!僕はエプロンに紙おむつ姿です。見かけたら気軽に声を掛けてくださいね♪スリーピーに栄光あれ!』
 
 ボリスがそう叫び終えた直後、何十人であろうか、狩り場に冒険者がどっと押し寄せてきた。
 
 「ボリスさん、レベルアップおめでとう~、スクショ撮ってもいいですかぁ~?」
 「うわっ、これまた何と珍妙な・・・・おっと、これは失礼。選手権頑張ってください。スクショのお礼に人気上げさせてくださいね」
 「俺は動画ですけどいいですか?できれば動画投稿サイトにアップしたいんですけど・・・」
 
 ボリスはあっという間に冒険者達に囲まれて身動きが取れなくなった。どうやらあやめとウーゴのメッセージを聞き付けてここに集まってきたらしい。
 あやめとウーゴも同様に取り囲まれていたが、ギャラリーの求めに応じで写真に撮られたり、握手やサインをしたりしている。手馴れた様子はもはやタレントかお笑い芸人と大差ないくらいである。
 まったく心の準備ができていなかったボリスは、群集のリクエストに右往左往するばかりである。
 
 「おい、スジを通して頼んでるんだから何とか言えよ!」
 「紙おむつキモッ!人気下げ。」
 
 おろおろするボリスにいら立った者の中には、ボリスに食って掛かったり、挙句の果てには暴言を吐いて人気を下げるものまで現れた。
 
 「何するんだ!この野郎!」
 
 人気度を1つ下げられ、ボリスは思わず声を荒げた。人気下げの犯人は、悪びれる様子もなくすかさず拡声器を取り出すと―
 
 
 『卍投げ大王卍 CH4:キモアバ変態紙おむつ野郎のボリスに暴言吐かれました。人気↓ヨロ!』
 
 
 どくろマークのついたメッセージを叫んだ。
 
 
 暴言吐いたのはお前だろ!
 
 そう訴えたかった。しかし人ごみのせいで追いかける事もままならなかった。
 
 
 こうしてボリスはキモアバ選手権の期間中、狩りをしては合間にスクショを撮られまくり、人気度を2つ上げてもらったかと思えば1つ下げられる毎日を過ごした。
 しかし、この喧騒の中でも狩りには集中することができ―実際は、冒険者の群れにもみくしゃにされたうっぷんを晴らしていたのであるが―あやめ、ウーゴと共にレベルをもう2つ上げ、3人ともレベル28に到達した。
 
 
 一週間後―
 
 ボリスたち3人は、キモアバ選手権の結果発表の場に臨んでいた。
 参加者はボリスたちを含めてざっと100人ほど。みんな自慢の(?)キモアバを身に付け緊張の面持ちでスリーピーウッドの電光掲示板前に集まっている。
 特設ステージの上手側には審査員席が設けられていて、サビトラマ、クリシュラマ、修行者、グウィンといった、スリーピーウッドでおなじみのNPCが陣取っていた。
 一方ステージ下の下手側には主催者席があり、スリーピーホテルの超極楽、釣り場管理人、屋台の店長が慌しく裏方の仕事をこなしていた。
 
 「ただいまから、第1回キモアバ選手権、審査結果を発表します!」
 司会を務めるスリーピーホテルのフロント係のお姉さんの声が響き渡った。
 
 「ボリスさん、いよいよね。」
 「何とか一週間乗り切れた。とりあえず罰金払わなくても良くなったから、一刻も早く終わってほしい。」
 
 発表を心晴れ晴れと待つあやめの言葉に、ボリスは着ているエプロンを恨めしそうに眺めながら答えた。今の心境をたとえるなら、赤点補修をギリギリで逃れて終業式に出ている高校生、といったところであろう。
 
 「俺としては、もう少し長くキモアバを着ていたかったな・・・せめてあと三日ほど。」
 ウーゴは一週間の大会期間に物足りなさを感じているようだ。
 大会期間中に仲良くなって、友録も交換したのだが、ボリスにとってウーゴの趣味はいまだに理解不能の領域である。
 
 「発表します。第3位・・・・・・・」
 
 司会のお姉さんの声に、ボリスは我にかえった。会場にドラムロールが響き渡る。
 
 「エントリーナンバー88 ボリスさん!」
 
 
 
 「えっ?」
 
 
 
 幽体離脱して自分の体を見ているかのようであった。自分の身に起きた事としてとらえる事ができない。
 
 「ボリスさん!やった!3位でちゅよ~♪ママと一緒に行きまちょうね~♪」
 「ボリスさん、固まってないで、早くステージに上がって」
 
 あっけにとられているボリスの背中を、あやめとウーゴがふざけ半分で押し上げるようにして三人一緒にステージに上がった。
 審査委員長のサビトラマが賞金1万メルの目録を携えてボリスに近づき、「おめでとう」の一言と共にボリスに手渡した。
 ボリスはぎこちなくそれを受け取った。すかさず、司会のお姉さんにマイクを向けられる。
 
 「受賞の喜びを一言お願いします。」
 「あの、途中でリタイヤして罰金を払わずに済んで良かったです。我慢できた自分をほめてあげたいです。」
 
 急な指名に慌てたボリスはたどたどしく受け答えをした。それが逆に好感を呼んだのか、場内から温かい拍手が沸いた。
 
 続いて準優勝者が発表された。お尻に穴が開いた白い全身タイツに黄色いレインフードをかぶった戦士の男性がステージに上がり、ガッツポーズをして喜びを表現していた。
 
 「それでは、栄えある第1回キモアバ選手権、優勝者を発表します。」
 
 司会のアナウンスを合図に、会場の照明が落とされ、暗闇の中でドラムロールだけが響き渡った。
 
 
 「優勝は・・・」
 
 
 
 固唾を呑んで聴衆が発表を待っている。ドラムロールが止んだ。
 
 
 
 「エントリーナンバー5番 ステラさん!」
 
 
 
 
 
 「なんですとーっ!」
 
 
 
 
 
 ボリスは驚きのあまりあのカエル型宇宙人のようにあごをはずして叫んでしまった。
 エリニアの木のダンジョンで出会ったダジャレ好きのお嬢様が、何と―
 
 
 頭にはハゲヅラ
 顔にはヒゲメガネ
 上半身は小ぶりながら形の良さそうな胸をさらしで固め、首から大きな念珠をぶら下げ
 下半身は南の島の民族衣装らしき「腰みの」姿で現れたではないか!
 
 
 
 それは、土曜の夜に驚異的な視聴率を記録し続けた、あの昭和時代のお化け番組に登場し、国民を爆笑の渦に巻き込み、翌日には子供が必ず真似をした、あの―
 
 
 
 ちょっとだけよおぢさん(ステテコじゃなく南の島の怪しい霊能者ヴァージョン)
 
 
 
 とも言うべきいでたちであった。
 
 「ちょっとボリスさん、優勝した人と知り合いなの?ねぇ、ボリスさん、聞いてる?」
 「ぜひ俺に紹介して下さいよ。って、ボリスさん、もしも~し」
 驚きのあまりあやめとウーゴの声もボリスには全く届いていない。
 
 ボリスの目の前では、満面の笑みを浮かべたステラが、ステテコのすそをまくり上げ―ではなく、腰みのをスカートに見立ててつまむようにしてお辞儀をし、サビトラマから賞金10万メルの目録を受け取っていた。
 
 「それではステラさん、優勝の喜びを一言お願いします。」
 司会が促すと、ステラはマイクに歩み寄りスピーチを始めた。
 
 「まずは渋るわたくしに出場を勧めてくれた父に感謝します。そして、選手権主催者とスタッフの皆様と、共に戦った出場者の皆様、そして、スクショを取って応援していただいた冒険者の皆様に心から御礼申し上げます。そして・・・」
 ステラは一呼吸おいてから、ボリスに視線を向けた。
 
 「わたくしがこの世界で初めてお友達になったボリスさんが、偶然にもキモアバ選手権に参加していて、しかも第三位の栄冠に輝いた事に、改めてお祝いを申し上げます。皆様、盛大な拍手をお願いします。」
 
 ステラの言葉に観衆がスコールのような大音響の拍手で応えた。
 
 「ボリスさん、ほら、ボケッとしてないで、ステージに上がるよ」
 あやめがボリスの手を引いてステージに連れて行った。
 「ささ、お姫様を待たせると失礼だよ」
 ウーゴが戸惑うボリスの横に回り、相撲の寄りきりの要領でボリスの体を再びステージへと押し上げていった。
 
 ステラはボリスの手を取ると、勝ち名乗りを受けるボクサーにするように高々と掲げて観衆の拍手と声援に目いっぱい応えた。あやめとウーゴも笑顔で観客席に向かって手を振っていた。ボリスだけが、借りてきた猫のようにその場にたたずみ、ざわめきの中に飲み込まれていた。
 
 
 
 祭りのあとの静けさの中、ボリス、あやめ、ウーゴ、ステラの4人は、スリーピーホテルの高級サウナで談笑していた。皆キモアバを外して、いつもの格好でここ一週間ほどの戦いの疲れを癒していた。
 ボリスはあやめとウーゴにステラを紹介し、エリニアの木のダンジョンでのいきさつを話した。
 清楚な中にも気さくさを兼ね備えたステラに、あやめとウーゴはすぐに打ち解け、三人はその場ですぐに友録を交換した。
 
 「ところで、ステラさんとキモアバ選手権って、僕としてはイメージに会わないんだけど、どうして参加する気になったの?」
 ボリスが尋ねると、ステラはわずかに目を伏せて、淡々と語り始めた。
 
 「実は、わたくしの家は社交界の中で、伝統ある誇り高い貴族であると共に、代々ダジャレの名門としても名をはせている一族なのです。わたくしどもが舞踏会で繰り出すちょっとしたダジャレは、場の雰囲気を和ませ、時には国の命運がかかった首脳会談の場でも、交渉を円滑に進める清涼剤の役目を果たしていました。」
 
 舞踏会でダジャレ?うなぎに梅干並みの食い合わせの悪そうな組み合わせにますます混迷を深めるボリスに構わず、ステラは話を続けた。
 
 「ところがボリスさんと出会ってまもなくですから、十日ほど前でしょうか、父から『最近お前のダジャレには魂が欠けている。今のお前のダジャレは先祖代々守り続けた芸術などではない。単なる語呂合わせだ!ダジャレの魂を取り戻すために、キモアバ選手権に出場して一から鍛え直して来い!入賞しなければ我が家の敷居をまたぐことまかりならぬ!』ときつく申し渡されて、背水の陣でキモアバ選手権に参加したのです。」
 
 ダジャレと語呂合わせってどこがどう違うんだ?ボリスは心の中でツッコミを入れた。ウーゴとステラは水難救助をした人の話を聞いているかのように、美談(?)をかみ締めながらウンウンと相槌を打っている。
 
 「開催日初日にエントリーを済ませ、我が家の名門としての威信を掛けてこの勝負に臨みました。父がコーディネートしたキモアバがあまりにもキモかったので、途中何度も逃げ出したくなりました。でも、幼いわたくしに最初にダジャレを教えてくれた、今は亡きひいお爺様を心の支えに、ギリギリのところで踏み止まりました。」
 
 「結果発表が始まる直前に、ボリスさんが参加している事に気づきました。発表を待っているとき、不安で心臓が飛び出そうになりましたが、ボリスさんも参加しているんだと思うと、不思議と安心することができました。結果発表を聞いたときは、嬉しいというよりも、むしろほっとしたと表現したほうが近いような、そんな気持ちでした。インタビューのとき、再びボリスさんの姿を見たときに、やっと平常心を取り戻し、自然に笑うことができました。ありがとうございます、ボリスさん。」
 
 ステラは自身の奮闘を語り終えると、ボリスの手を取り深々と頭を下げた。
 
 「僕、何もしてないし、そんなに頭下げられると、かえって恐縮しちゃうよ・・・」
 
 ボリスは少し照れながら、おおげさに思えるステラの最敬礼を目の当たりにして頭をかいていた。
 
 「貴族の世界ってのもいろいろと大変なのね~。あたし庶民に生まれて良かった~。」
 「代々続く落語家一家ともまた違った感じで、苦労も多そうだよな~。ステラさん偉い!」
 あやめとウーゴの二人も、それぞれステラの話に感心していた。
 
 「おまけにあやめさんとウーゴさんともお友達になれて、わたくし盆と正月が一度に来たようで本当に嬉しい限りです。そうですわ、お近づきの記念に、今度カニクエをご一緒しませんこと?4人とも28レベなら、スーパースライムと互角以上に戦えましてよ。」
 
 「あたし行くぅ~っ!」
 「俺も!」
 「まだ行ったことないから、僕も行きたいです!」
 
 ステラの提案に、あやめ、ウーゴ、ボリスは好奇心満々で同意した。
 
 4人の意気込みのせいなのか、心なしかサウナの温度が上昇したような、そんな夜のひとときは静かに更けていった。
 
(第8話に続く)
August 21

ボリス in maple 登場人物紹介

 遅ればせながら、「ボリス in maple」の登場人物を紹介します。新キャラ登場ごとに更新しますのでご安心を。
 
 
 ボリス この物語の主人公。職業は斬り賊。温厚で理知的だが、小心者。最強の斬り賊を目指して修行中。お金に少々がめつい。投げ賊からバカにされると人が変わったように怒りまくる。
 
 あやめ ボリスの友録第1号の友達。職業は弩使い。明るくキップのいい粋でいなせなお姉さま。酒豪で焼酎好き。
 
 ウーゴ ボリスの友達。あやめの紹介でボリスと知り合う。職業は弓使い。いわゆるチョイ悪オヤジ。マイペースで細かいことは気にしないタイプ。
 
 ステラ ボリスの友達。職業は氷雷魔。ボリスを通じてあやめ、ウーゴと知り合い、以来行動を共にしている。清楚なお嬢様で熱狂的なサッカーファン。ダジャレ好き。
 

 バルネリ ボリス、あやめ、ウーゴ、ステラが所属するジャクム固定PTの主催者。職業は聖魔。おとなしい性格であるが、廃狩りモードになると3日ぶっ通しで狩りまくったこともある。趣味は釣り。

 

 リュフト バルネリとペアを組む槍鉾使いでバルネリ固定PTのメンバー。短気だが情に厚い。その性格ゆえに仲間から慕われているが、トラブルを呼び込むこともしばしば。赤い色の装備が好き。
 
 ラーク バルネリ固定PTの副主催者。職業は投げ賊。口数が少なく、地味な性格。
August 20

ボリス in maple 第6話

 キモアバ選手権(前編)
 
 
 (かぁーっ!やっぱサウナはいいよなぁ~っ!体から悪いものが全部出ていく感じだよなぁ~っ!)
 
 ボリスは額から滴り落ちる汗をタオルでぬぐい、ベンチに座った状態で足を前に投げ出すように伸ばすと、サウナ室の天井を見つめていた。
 ここはビクトリアアイランドの中央、スリーピーウッドにあるホテルのサウナルーム。冒険者の間では「スリーピーサウナ」の呼び名で親しまれている。
 
 木のダンジョンでは物足りなくなってきたボリスは、更なるレベルアップの場を求めてここに来た。このホテルを拠点にして、アリの巣ダンジョンに篭りツノきのことゾンビきのこ相手に技を磨こうというのである。
 明日からは新たな敵と真剣勝負が繰り広げられる。狩り場の移動で疲れた体を休めるため、彼はチェックインを済ませるとサウナへ直行した。
 
 (いつもは混んでるって聞いたんだけど、今日の客は僕一人か・・・でも、広いサウナを独り占めってのも気分いいなぁ。)
 ボリスはがらんとしたサウナ室を見回しながら、王様気分を満喫していた。
 
 ―ギィ
 
 扉が開く音にボリスが振り向いた。
 
 (なんじゃこりゃー!)
 
 驚愕のあまりもう一度目をこすり、頬をつねり、目の前の光景を確認する。しかし、どう見ても幻覚などではない。
 目の前に見えるのは男女の二人組。
 しかしボリスが驚いた理由は、女性が入ってきたからではなかった。ここは混浴である。
 
 男はちょんまげのかつらにブタメガネをかけ、黒い競泳パンツ一丁のいでたち。
 女は日本髪を結ってかんざしを差している。なぜか顔には中国の京劇のメイクのような紋様のお面をかぶり、さらにレースクィーンが着るようなハイレグワンピース水着を付けていた。
 
 今まで見たこともない珍妙な格好の二人を見て、ボリスは唖然とするばかりだった。
 
 (あの人たち、なんであんな格好をしているんだろう。笑いを取るためなら笑ってあげなきゃいけないのかな?でも本人がかっこいいと思ってやってるなら笑うのは失礼だし、何かの罰ゲームでやらされているなら、僕がジロジロ見てたら嫌がるよね。いったいどうすれば・・・・・・)
 
 ボリスはどう対応しようか大いに迷っていた。とりあえず視線だけは外そうとしたものの、何かに魅入られたように体が言うことをきかない。
 そうしているうちに、女の方が視線を感じたのか、ボリスの方に振り向いた。じっとこちらを見ている。
 
 (まずい、ジロジロ見るなとか言われるのかな・・・・・)
 
 ボリスは動揺を隠そうと必死だった。しかし、彼の動揺を見て取ったのか、女は薄笑いを浮かべるとボリスに近寄ってきた。
 
 (こっちに来るよ!やばい!絶対文句を言いに来るに決まってる。どうしよう、GMに通報されたら最悪BANされちゃう!)
 
 客観的に見れば誰かをジロジロ見たぐらいでBANされることはまずないのであるが、このときのボリスは冷静な判断力を失っていた。女が近づいてくるほどに、サウナの熱気で上がっていた心拍数はさらに上がり、頭の中はパニックになっていく。
 
 どうしよう、もうだめだ―
 
 
 しかし女の反応は意外なものだった。
 
 「ボリスさん」
 
 女はベンチに座ったボリスの前に立ち止まると、親しげに彼の名前を呼んだ。
 
 「あ、あの、どちらさまでしたっけ?」
 
 女は仮面と日本髪のかつらを外し、にこりと微笑んだ。 
 
 「あたしよ、あたし。あやめよ。」
 
 「何だ、あやめさんだったのか。知らない人がけんか吹っかけてくるのかと思って冷や冷やしたよ。」
 ボリスは身に迫った危機が自分の勘違いだったとわかると、ほっと胸をなでおろした。
 
 「あやめ、知り合いなの?」
 
 ボリスとあやめの様子を見ていたちょんまげ海パン男はそう言って二人の許に歩み寄り、ブタメガネとちょんまげのかつらを外した。
 中から出てきたのは、以外にも細面でかっこいい、チョイ悪オヤジのルックスと雰囲気を持った男だった。
 
 「紹介するね。こちらはボリスさん。あたしの友録第1号のお友達。で、こちらはウーゴ。昨日ここで知り合って、意気投合してしばらくここで一緒にレベ上げしようって事になったの。」
 「初めまして、ボリスです。最強の斬り賊目指して修行中の者です。」
 「ウーゴです、こちらこそよろしく。」
 あやめを間に挟み、二人の男はがっちりと握手した。
 
 「それにしても、二人とも何でそんな格好をしてるの?」
 
 「あたしたち、キモアバ選手権に参加してるのよ。」
 
 「キモアバ選手権?」
 
 「キモいアバター装備を略してキモアバ。異世界の通貨『エン』で買えるアバター装備って呼ばれる服や武器なんかを身に付けて何日か生活して、そのコーディネートの気色悪さを競うイベントの事ね。あたしたち、そのイベントに参加してるの。」
 
 あやめはボリスの疑問にていねいに答えていった。
 
 「じゃあ、コスプレでも罰ゲームでもなかったんだね。でも、どういういきさつでキモアバ選手権に参加する事になったの?」
 
 「その質問には俺が答えよう。」
 
 ボリスの更なる問いに、今度はウーゴが応じる。
 
 「キモアバ選手権で3位以上になると、賞金がゲットできるからさ。優勝で10万メル、準優勝で3万メル、3位でも1万メル手に入る。賞金はここのホテル、向かいの釣り場、そしてダンジョン奥のアリの巣広場の屋台が共同で用意している。最近スリーピーウッドを訪れる冒険者が減っているらしくて、町おこしのためにこのイベントを三者共同で企画したってわけだ。」
 
 「賞金目当てでキモアバ選手権に参加したって事なの?」
 「あやめはそうだな。でも、俺の場合、趣味と実益を兼ねてってところだ。」
 
 ウーゴさんは趣味なんだ・・・。
 
 ボリスは思いっきり引いていた。しかし、それを差し引いたとしても、賞金10万メルはボリスにとって魅力的だった。斬り賊志望のボリスは将来接近戦で回復薬の消費が多くなる。それを考えると、軍資金は多い方がいい。狩り中でもメルは残さずすぐに拾うがめついボリスの皮算用―もとい、資金調達計画がまたたく間に書き換えられた。
 
 「僕もやってみようかな・・・」
 
 目先の10万メルに目がくらんだボリスが不用意にそう口走ったとき、ウーゴとあやめの目が怪しく光った。
 
 「おぉ!チャレンジャーよ!良くぞ決意した!」
 「さすがあたしが見込んだボリスさんだけあるわ!決断が早い!」
 「実はもうボリスさんの着る服は考えてある。俺が今着ている服とどちらにしようかと、最後まで迷って結局着なかった服だ。」
 「善は急げよ!今ここで着てみたら?」
 「それはいい!あやめはボリスさんがキモアバ選手権に参加できるよう今すぐ手続きを頼む。俺はここでボリスさんの着替えを手伝おう。」
 「ガッテンだ!」
 あやめは日本髪のかつらと京劇のお面をつけると、猛スピードでサウナを飛び出していった。
 
 「ちょっと待って!僕まだ決めたわけじゃないんだけど・・・」
 「はいはいはいはい、この期に及んで見苦しいぞ!ボリスさん、これを着てから決めても遅くはないから。」
 先走るあやめとウーゴを静止することができないまま、ボリスはウーゴお勧め(?)のキモアバを半ば無理やり着せられた。
 
 そして5分後―
 
 「これで、しばらく生活するの?」
 ボリスは戻ってきたあやめに不安いっぱいで尋ねた。
 
 これが本当に自分なのか、サウナ備え付けの姿見に映っているものを受け入れるのは困難だった。
 受け入れてしまえば、自分は人間として大切な何かを失ってしまうような、ボリスはそんな感覚にさいなまれ始めていた。
 なぜなら、目の前の自分は―
 
 頭には青と黄色のツートーンの傘
 上半身は赤いエプロン、ただし乳児用のもの
 下半身は、なんと紙おむつ一丁!
 
 これじゃあ幼児プレイキャバの常連客じゃないか!
 
 「これで結果発表まで一週間過ごすのよ。何かキモカワユさ爆発って感じで、いい味出してるわ。」
 あやめがボリスの全身をじっくりと見回しながら、わずかに口元を緩めて含み笑いする。
 
 「俺がこっちにしておけば良かったかな。でも、ボリスさん背がでかくてごついから、このアバのキモさを生かせるのはやっぱりボリスさんか。」
 ウーゴは自分のコーディネートに大満足なのか、腕を組んで大きくうなづいている。
 
 「僕、やっぱりやめるよ。どこで手続きすればいいの?」
 穴があったら入りたいボリスであった。もう一秒でも早くこの服を脱いでしまいたい。
 しかし、ウーゴから告げられたのは、非情な通告であった。
 
 「ボリスさん、途中でエントリーを取り下げると、罰金10万メル払わないといけないですよ。」
 
 
 「えーっ!僕そんなお金持ってないよ!」
 
 「じゃあこの格好であたし達と一緒に参加するしかないわね。」
 
 「最初から僕を道連れにする気だったでしょ?」
 「男は細かいこと気にしないの。は~い、坊やぁ~っ、ミルクの時間でちゅよ~♪」
 
 あやめは抗議しようとするボリスの口をミルク入りの哺乳瓶でふさぎ、べろべろばーで赤ん坊をあやす真似をした。
 いつの間にかサウナは他の客で混雑し始めていた。
 
 「あのおっさん、バカでねぇ~の?」
 「頭の中、かなりイッちゃってるよね・・・・」
 「キモアバ選手権だろ?俺なら賞金のためでもあれはできねぇ~よ」
 「あたしあんなことしたら友達なくしちゃう・・・」
 
 侮蔑の言葉と冷たい視線が容赦なくボリス達に浴びせられていく。
 ボリスはとどめを刺されて思考が停止してしまっていた。
 しかしウーゴとあやめはどこ吹く風といった感じでそれらをまったく意に介さない。
 
 「そのうちボリスさんも病み付きになりますよ。では、一休みしたことですし、もうひと頑張りゾンビきのこ狩りに行きますか。」
 「あたしも行くー」
 ウーゴとあやめは自分のキモアバセットを身に付け、ボリスを残してさっさとサウナを出ていってしまった。
 
 「ちょっと、置いて行かないで!一人じゃ恥ずかしいよ!」
 この上放置プレイまでされたらかなわない。
 ボリスは慌ててウーゴとあやめを追いかけ、逃げるようにサウナを後にした。
 
(第7話に続く)
August 17

久々にINしました

 昨日(16日)INしました。お会いしていなかった皆さん、本当にお久しぶりです。最後にINしてから何ヶ月経ったのでしょう。
 僕がお休みしている間に海賊職が実装され、それに伴いいろいろなものが追加されているようです。
 リハビリと新MAP調査を兼ねて、早速海賊MAPに行き、クエストをやってきました。
 MAPに入ると、いきなりです。
 
MAP名はノーチラス?
 
ノーチラスって、ジュール・ベルヌの「海底二万里」とか、アニメ「不思議の海のナディア」に出てくる潜水艦と同じ名前ですね。どんな船なのでしょうか。ワクワクしながら先を行くと・・・
 
ノーチラス号外観
 
 クジラ型潜水艦と行った感じの外観ですね~。そして不思議なことに、ここの海の中に入ると、
 
ジャンプ力向上2
 
 いつもより高くジャンプできます。
 ノーチラス号の中に入ると、以外にも内壁は木でできている!これで深海の水圧に耐えられるのだろうか。心配しつつ中を見回って秘密を探ってみると・・・理由がわかりました。
 
ノーチラス号動力室
 
 このイルカに囲まれている大きな石がこの船の動力源であり、さらに、さっき外でジャンプ力が大きくなっていたのも、この石のパワーによるものだったんですね~!だから木製でも水圧に耐えられるんですね。
 でも、「不思議なパワーを持つ石」と「潜水艦」の組み合わせって、なんかますます、「不思議の海のナディア」っぽい感じがします。もしかして船長の名前も「ネモ」なのでしょうか?
 そして船長さんに会うため、ブリッジに行きました。
 
ノーチラス号ブリッジ
 
 さすがに名前は「ネモ」ではありませんでした。カイリンさんという女性でしたね。海賊の女船長って、どこかで見たことあるような気がします。船の計器も思ったより近代的な感じで、思わず、『宇宙の海は俺の海!』とか叫んじゃいたくなります。でも、カイリンさんの顔には傷は無いみたいです。
 海賊転職官ということは、ダークロード先生やヘレナ先生と同格の立場なんですね。この若さですごいですね~。
 船長の背中の向こうに島影が見えます。ビクトリアアイランドでしょうか。それともフロリナでしょうか。
 そして僕の頭上には大きなモニターが2つ。この顔には見覚えが・・・おぉ!地球防衛本部のドクター中村じゃないですか!ということは、対侵略宇宙人戦もできる海賊さんなのですね!
 
 さらに船内を探索すると、
 
武陵で見たことありそうな人
 
 こんな船員さんがいました。良く似たモンスターが武陵にいましたよね?お話を伺うと、ノーチラス号専属の科学者らしいです。ドクター中村に報告書を届けるように頼まれました。
 そして―
 
タンユンとパンダオーブン
 
 何とパンダがいました!さっきの学者さんに続いて、このお方も武陵の関係者なのでしょうか?やはり海賊は武陵と縁が深いのでしょう。デイビーゾーンもいることですし。
 申し遅れましたが、ここは船内の食堂。後ろに屋台みたいな物や、サメを丸焼きにできるオーブンがあります。でも、サメって、ヒレ以外はおいしくないらしいですよ。味より量優先といったところでしょうか。
 この方からもお話を伺いました。なんでもモンスターに食材を食い荒らされて困っているとのこと。モンスター退治と食材集めを依頼されたので、引き受けました。
 
 そしてこの二人以外からもクエストを受けて、あちこち行きました。
 
クエスト遂行中1
 
 こんなモンスターとも戦いました。サベジ1発で楽勝です。そして、
 
クエスト遂行中2
 
 ホワイトチューの罠も集めました。密集の中はシーブズに限りますね。6体瞬殺の図です。
 なんだかんだで、一番難しくて報酬の高いクエスト以外、全部完了しました。
 
新クエスト完了
 
 そのうち海賊ネタで小説も書いてみようと思います。
 今日のお話はここまで。
 次回は小説第6話掲載の予定です。
August 08

ボリス in maple 第5話

 覗くお嬢様!?
 
 「ソロ狩りって、どうも味気ないというか、張り合いが出ないんだよなぁ~」
 ボリスは手裏剣を投げながらそう言うと、ため息をついた。
 今日はあやめは、墓参りへ行くと言って実家に帰っている。ボリスはしばらくぶりで、一人さびしくエリニアにある「木のダンジョン2」で、ツノきのこと緑きのこを狩っていた。
 
 あやめと出会って一週間が過ぎた。あれからあやめとはほぼ毎日グルを組んでオクトパス、リボンピグ、緑きのこといったモンスターを狩り続けていた。グル狩りボーナスを稼いだせいもあって、2人の経験値はまたたく間に上がり、今では2人とも20レベルに到達していた。ボリスは遠投、ラッキーセブンともにほぼ完璧に習得し、命中率と回避率上昇スキル、シックスセンスを習得中であった。
 一方あやめも、1次弓使いの基本攻撃スキル、ダブルショットを完成させるのにあと一息というところまでこぎつけ、長い射程を生かして狩りを有利に進めていった。
 
 しかし1次スキルが充実し、狩りが楽しくなってきたところへ、水を差された形になってしまったボリスのテンションはなかなか上がらない。
 「まぁ、鍋ふたとパンプキンスピアと赤浮き輪狙いでがんばるか。」
 ボリスはレアアイテム狙いに切り替えることで、上がらないモチベーションを維持しようと自らを鼓舞して手裏剣を投げまくった。
 
 「ブシュ!」
 「ビュッ!」
 ネイビーブルーとモスグリーンの傘を持つ歩くきのこたちが次々と断末魔の声を上げながら倒されていく。
 
 そんなことを2時間ほど続けたころであろうか。ボリスの手裏剣を受け倒された緑きのこが、黄金色に光った金属の円盤を落とした。
 
 (もしかして―)
 
 レア物ゲットの期待を胸に、ボリスは緑きのこの「置き土産」を確認すべく近づいた。心臓の鼓動が徐々に早くなる。
 
 「やった!鍋ふたゲットだ!」
 
 ボリスの期待を裏切ることなく、鍋ふたは硬く冷たい金属の感触をその手に伝えていた。これで2次転職して武器を短剣に持ち替えたときに盾も装備できる。ゆくゆくは強化も可能だ。鍋ふたは全職装備だから、強化した後いらなくなったらフリーマーケットに出せば高値で売れること間違いない―
 ボリスの皮算用はとどまるところを知らなかった。こうなると俄然やる気が出てくる。
 「次はパンプキンスピアだ!うぉーっし!じゃんじゃん狩ったるでーっ!」
 ボリスは不自然な関西弁で気合を入れると、今までとは打って変わって、目を血走らせて廃狩りモードに突入していった。
 
 「パルプンテ!」
 「パンプキン、浮き輪、パンプキン、浮き輪・・・・・・」
 
 効果に大いに疑問ありの怪しい呪文を、時折ぶつぶつと唱えながら狩りを続けていくと―
 
 じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ
 
 ボリスは背後にねっとりとした視線を感じた。
 
 振り返ると、ダンジョンの入り口で、自分と同じかやや年上ぐらいの女性が、立ち尽くしたまま何をするでもなくじっとこちらの狩りの様子をうかがっている。髪型はセミロング、服装からして、1次職の魔法使いのようだ。卵形の顔にくりくりっとした目で、背は低く細身である。
 
 横狩りしそうな雰囲気ではないので、ボリスは特に気にも留めずに狩りを続けていった。
 狩場を一巡りしてダンジョンの入り口に再び近づいたとき、ボリスと女性の目が合った。女性のほうも、ボリスが自分の存在に気づいたことを悟っているようだ。
 
 じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ
 
 しかし女性は隠れるでもなく、視線をそらすでもなく、相変わらず穴を開けるような勢いでボリスを見つめ続ける。
 
 じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ
 
 狩場を5周した頃には、ボリスのほうが視線に耐えられなくなっていた。
 
 (ここは追い払うよりグル狩りをして気持ちよく帰って頂くほうがトラブル回避のためにもいいだろう。)
 そう算段をつけて、ボリスは彼女に声をかけた。
 「グル狩りしますか?」
 
 しかし彼女の答えはボリスの予想を見事に覆した。
 「ごめんなさい、わたくしこれから用事がありますので、もう行かないといけないのです。」
 
 (はぁ?何なんだこの人は?狩場の空き待ちでもグル狩り希望でも横狩りでも冷やかしでもなく、ただの見物だったのか?)
 だったら「見学させてください」とか一言あってもいいんじゃないか?
 ボリスはそう苦情を言おうと顔を上げて女性と目を合わせた。しかし、彼女の目は真剣そのもので、道を極めんとする剣豪の如きオーラを身にまとい、さらに育ちのよさそうな気品と少々の天然ボケをたたえてボリスから苦情を言う気力を奪っていった。
 
 ボリスは降参した。そして、今いちばん気になっていることを彼女に尋ねた。
 「どれぐらいの間見ていたんですか?」
 「あなたが鍋ふたをゲットしてニヤけていた少し前からですわ。」
 そう言うと彼女は高貴な香りを満載してやわらかく微笑んだ。
 
 「参ったな・・・・なんかみっともないところを見られてしまったみたいで、お恥ずかしい。」
 「いえいえ、そんなことありませんわ。特大のミヤマクワガタを捕まえた子供のように無邪気でほほえましい光景でしたわ。これで赤浮き輪もゲットしたら、もうウキウキワクワクって顔をしていらっしゃいましたわよ。」
 
 照れるボリスに向かって、お嬢様は今度は気さくさ過積載といった感じでダジャレを繰り出した。
 
 「あと、先日パンプキンスピアをドロップしましたのですが、カボチャの槍は以外にか細いですわね。」
 
 「ショーワのシンタとハナコと掛けて、フライパンと鍋ふたと解く。そのココロは?―」
 
 あっけにとられるボリスに、魔法使いの女性はさらにダジャレとなぞかけを連射する。令嬢の見事なフェイントにあっさりと裏を取られ、ディフェンスラインをずたずたにされたボリスに、彼女を止めることはできなかった。ボリスにできることは、両手ぶらりのノーガードで彼女のダジャレコンビネーション攻撃を受けることだけであった。
 
 「あー楽しかった!」
 ダジャレを連発させて気が済んだのか、彼女は大きく深呼吸して長身のボリスを見上げた。
 
 「あら、自己紹介がまだでしたわね。わたくしの名前はステラ。見てのとおり魔法使いです。あなたは?」
 「僕はボリスといいます。最強の斬り賊目指して修行中です。よろしく。」
 
 ボリスが手を差し出すと、彼女はためらうことなくそれに応じた。がっちりと手を取り合い、ステラのほうからぶんぶんと手を振ってきた。
 (なんか独特な雰囲気の人だけど・・・楽しそうな人だな。)
 終始押されっぱなしのボリスであったが、不思議といやな感じはしなかった。
 
 「もし良かったら、友録お願いしたいのですが、いいですか?」
 ボリスはステラに思い切って友録を申し込んだ。
 「え~と・・・・・・こんなわたくしで良ければ・・・・・ぜひお願いしますわ。」
 ボリスの申し出に対し、ステラはしばし考えた後、すこしもじもじしながら承諾した。でも嫌がっている様子はない。
 
 (物おじしないのかシャイなのか、いまいち良くわからない人だけど、これからの冒険が楽しくなりそうだ。)
 そんなことを考えながらボリスはステラと友録を交換した。
 
 「それではわたくしこれで失礼します。狩りがんばって下さいましね。」
 「ステラさん、またね。」
 ステラと別れ、狩りに戻ったボリスは、その後延々7時間、木のダンジョンに篭って狩りまくったのであった。
August 07

ボリス in maple 第4話

 弓使い・あやめとの出会い
 
 念願叶って盗賊になったボリスは、翌日から早速修行に出かけた。まずは手裏剣の遠投技術と二枚投げスキル「ラッキーセブン」を習得すべく、ヘネシス村の入り口にある狩場1へ行き、ひたすら手裏剣を投げてモンスターを狩りまくった。
 
そして修行を始めてから1週間―
 ボリスの手裏剣の飛距離と攻撃力は、徐々にではあるが確実に伸びていた。飛距離は2倍ほどになり、ラッキーセブンのダメージも上がり、完成度50%といったところだった。もうメイプルきのこやスライムやスタンプといった敵にも、互角以上の戦いができる。余裕が出てきた彼の当面の課題はメルを稼いで手持ちの手裏剣を増やすことであった。
 
 ボリスが自らの課題に従いモンスターが落とした小銭を拾い集めている時、狩場の向かい側から男と女の声が聞こえてきた。なにやらもめているらしい。近づいてみると、ショート・ボブの髪に弓を携えた女性が、3人の10代後半くらいの男にからまれている。
 
 「よお!姉ちゃん、俺たちとデートしない?」
 「ヘネタク前で合コンやるんだよ。女の子足りないからさぁ~っ、頼むよ。」
 「僕の彼女になってください!」
 男たちは猫なで声と押しの強さを駆使して、切れ長の目をした美人を口説こうと全神経を集中させている。
 女性の方はいきなり声をかけられて、事情が飲み込めずにいた。戸惑う彼女に対し、男たちは執拗にアプローチしてくる。
 
 「何だよ、合コンじゃ物足りないってか?それじゃあ近くの空き家でパーティーしようぜ」
 「男は嫌いか?だったら安心しな、うちじゃあ女同士でも楽しめるぜ?」
 「いっそ結婚してください!今すぐ!」
 
 男たちの勝手な言い分に女性の眉尻はキリキリと吊り上がったかと思うと、急に八の字に下がり、男たちに精一杯侮蔑のこもった視線を送ると盛大にため息をついた。
 
 「あんたたちみたいなお子ちゃまに付き合ったら、そっこー逮捕されていんこー女の烙印押されて表を歩けなくなるでしょ。わかったら狩りの邪魔しないで。帰った帰った。」
 
 女性は良識ある大人として、穏便に、筋道を通して3人を説得しているつもりであったが、男たちはそうは受け取らなかった。子ども扱いされ、軽くあしらわれた上に男のプライドを傷つけられたと理解したのである。
 
 「このババァ!下手に出てりゃいい気になりやがって!」
 「拡声器でお前は詐欺師だって叫んでやる!」
 「パス抜きしてスパイウェア送るぞ!コラ!」 
 先ほどの態度とはうって変わって、男たちはねずみをいたぶるネコのような無邪気で残虐な正体を現した。恫喝的な物言いは、まさにチンピラのそれである。
 
 「あんたたち、口で言ってもわからないようね・・・だったらこうしてやる!」
 女性は持っていたバッグから瓶を取り出すと、次々と3人の男の頭にその中身をぶちまけた。中身のモノは、男達の体の上をモゾモゾ、クネクネとうごめいている。
 
 「それはリスの港で集めたフナムシとここの近くで集めたミミズよ!わかったらさっさとお家に帰りなさい!」
 
 タネあかしをしてとどめの一言を告げた。―ふっ、この特製変質者撃退アイテムを食らって反撃したやつなんて、未だゼロよ!
 女性は背負った弓を手に取り狩りを始めようとした。
 
 しかし、当てはあずれた。
 「てめぇ!」
 「やっちまえ!」
 「お前も虫まみれにしてやる!」
 男達はフナムシとミミズまみれになりながら女性に襲い掛かってきた。弓を持っている手をひじを内側にしてひねり、間接をキメて舌なめずりする。
 「いや・・・やめてーっ!」
 女性は抵抗するすべを失い、恐怖にすくむ心に負けまいと悲鳴を上げた。
 
 (まずい!)
 事の一部始終を見ていたボリスは、4人の前に一目散に飛び出した。これ以上は放っておけない。
 「ここからは僕が相手だ!」
 ボリスは女性と3人の男の間に割って入り、のど元に愛用のフルーツダガーを衝きつけた。しかし男は顔色ひとつ変えずに、ターミネーターのように事務的にかつ効率良くボリスの利き腕の手首を手刀で払い、ボリスのみぞおちに蹴りを入れた。ボリスは一撃で飛ばされ、かばっていた女性の後方でうずくまっていた。
 
 「けっ、口ほどでもない。」
 「へへっ、お楽しみはこれからだ」
 男達は再びいやらしく緩みきった顔を女性に向け、退路を断つように女性を囲む。
 もうだめ―助けて!やめて!
 女性が半狂乱で祈りをささげたその時―
 
 『拡声器でお前が詐欺師だって叫んでやる!』
 『パス抜きしてスパイウェア送るぞ!コラ!』
 『―やっちまえ!』
 
 どこかで聞いたことのあるようなセリフであったが、声の主は3人の男ではなかった。
 声の方向をたどると、それはボリスの手の中にある小さな器械であった。
 
 「お前達!今ここでの一部始終は、このデジカメにすべて収めてある。これをGMに持ち込めば、お前達は間違いなくBANされるだろう。」
 
 ボリスはさっきのダメージが残る体をふらつかせながら立ち上がると、動かぬ証拠を男達に突きつけた。
 
 「てめぇ、か、隠し撮りしてやがったのか?」
 「変態みたいな、真似しやがって」
 「一撃でのされた、弱っちい、ヘタレのくせに、な、生意気だぞ!」
 三下の小悪党丸出しのセリフで男達はボリスをののしった。しかし動揺の色は隠せない。ボリスは無視してさらに続ける。
 
 「変態はお前らのほうだ!それにこれは盗撮ではない。ホームビデオ撮影中に、偶然犯罪の現場を捉えたスクープ映像だ。さらに言っておくが―」
 いったん息継ぎをし、自分のことを弱っちいと言った少年に視線を送ると、含み笑いを浮かべてさらに続ける。みるみるうちに男達の表情が青ざめていく。
 
 「大人はガキと違ってむやみやたらと拳でモノを言わせないものだ。相手を潰す時は法律をタテに正しく国家権力を行使する、それが大人のやり方だ。わかったらとっとと失せろ!クソガキ共!」
 ボリスがそう叫ぶや否や、3人の男は恐怖に顔を引きつらせ、我先にボリスと女性の前から逃げていった。
 
 ボリスは仁王立ちで逃げていく男達を見届けた。難を逃れた女性が、未だ恐怖で言う事を聞かない足腰と闘いながら立ち上がり、ボリスに駆け寄っていく。
 「あの、危ないところを助けて頂いて―」
 女性が感謝の言葉を言い終えないうちに、ボリスはヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。
 「大丈夫ですか?!」
 女性はボリスの体を支えようとしてボリスの右側にしゃがみこんだ。さっきの蹴りがまだ痛むのだろうか?しかしボリスの口から出た言葉は、女性には意外なものだった。
 「こ、こ、怖かった・・・・・安心したら、腰が抜けて・・・ははは」
 大の男から出てくる間の抜けた言葉を聞いて、彼女も同じように笑った。心身に溜め込まれた緊張が一気に吐き出され、少しずつ日常を取り戻していくのがわかる。
 
 「改めて、危ないところを助けて頂いてありがとうございます。あたしの名前はあやめ、5日前にヘネシスの弓使い学院に入った見習い弓使いです。」
 「僕はボリス、最強の斬り賊目指して、修行中の身です。よろしくお願いします。」
 お互いの自己紹介を済ませると、2人はがっちりと握手を交わした。
 
 気持ちが落ち着いたところで、2人はヘネシス入り口の木の門の前にリラックスチェアを拡げて、お互いの近況を語り合った。冒険者になったきっかけ、パス抜きや詐欺対策、横狩り対策などの話題が主で、少しだけ冒険者として先輩になるボリスがあやめの質問に答える形で話が弾んでいった。そして―
 
 「あやめさん、良かったら僕と友録していただけないでしょうか?」
 「え?友録って?」
 「友達になって、お互いの友達リストに名前を登録するんですよ。離れたところでチャットしたり、一緒に狩りをしたりできるようになります。お互いの居場所もわかりますよ。」
 「あたし、冒険者になってから友達一人もいなかったんだ。あたしで良かったら、ぜひお願い。」
 あやめは二つ返事でボリスの提案を受け入れた。
 「じゃあ、録送りますね―これでよしと。」
 2人は友録を交換した。
 「あやめさんも僕の友達第一号です。よろしくお願いします。」
 ボリスは丁寧にお辞儀をすると、あやめもそれに応えて深々とお辞儀をした。
 明日をも知れぬ冒険者生活の中でのつかの間うるおい、安心感を2人は噛みしめていた。
 
 「早速だけど、明日都合が良ければ、カニングでオクトパス狩りでもしない?」
 「いいねぇ、行こう行こう。」
 「じゃあ、あたしは今日はこれで失礼するわ。またね。」
 「また明日ね、あやめさん。」
 明日の狩りの約束をして、2人は楽しそうにそれぞれの宿に引き上げていった。
 
August 06

ボリス in maple 第3話

 旅の始まりはバナナでKO
 
  時はジャクム討伐の時から2年前―
 ここはリス港口。希望に胸膨らませ、一人の青年がまさに今、冒険者のキャリアをスタートしようとしているところだった。
 青年の名はボリス。メイプルアイランドで初心者教習所を卒業し、その後マイという女剣士の元で修行を積んで、今日の日に備えてきた。
 
 (よし!)
 彼は赤い運動帽をかぶり直し、自らに気合を入れた。
 (まずはカニングシティーだ!腕試しにモンスターを倒しながら行こう。)
 ここに来る途中でビックスという船乗りからもらったフルーツダガーを腰から抜き、ボリスは海岸に駆け出していった。
 磯の香を運んで緩やかに風が吹く。かもめが滑空しながらボリスを追い越して行く。
 
 突然、彼の行く手に青デンデンとスポアが立ちはだかったが、軽く一蹴してカニングへと駆けていく。
 何もかもが順調だった。計画通りだった。
 (この調子だと、カニングまですぐだな。意外とビクトリアアイランドのモンスターは強くない。いける。)
 手ごたえをつかみ、ボリスは勢いに任せて突進していった。
 
 カニングシティーに入った。ここは町の郊外にあるニオン森。
 ボリスは地図で自分の位置を確認した。町まであと一息である。
 「まずはこのロープを登るんだな。それ!」
 ボリスは前方のロープに向かってジャンプした。しかし、わずかに距離が足りない。
 「あれ?うわっ、あーっ!」
 ロープをつかみ損ねたボリスは真っ逆さまに下に落ち、しりもちをついた。
 
 「あいたたたた」
 痛む尾てい骨をさすりながら立ち上がると、バナナをもったサルがこちらを見ていた。
 「アハハハハハッ!」
 持っているバナナでボリスを指し示し、けたたましい声を上げてボリスを嘲り笑っている。
 「このエテ公!」
 おさる風情にそこまで爆笑されては冒険者としてのプライドが許さない。
 ボリスはフルーツダガーでこのサルモンスター、ルーパンめがけて斬りつけた。しかし、ルーパンはびくともしない。
 
 「アハハハハハッ!アハハハハハッ!」
 「笑い過ぎなんだよ!」
 けたたましい笑い声が、ボリスの怒りをさらに増幅させた。
 ボリスは我を忘れてさらに短剣を振り回す。しかしルーパンはそれを全てかわした。
 生きた笑い袋と化したサルはさらにそこいらを笑い転げながら、素早くバナナの皮をむいて実を食べた。残った皮をボリスめがけて投げつける。
 「そんなもの僕にはきかな、ぎゃぁーっ!」
 バナナの皮はボリスの顔に直撃した。脳天にずしりと思い衝撃を受けたかと思うと、天にも昇るような感覚とともにめまいと吐き気に見舞われる。
 (冒険者、バナナで死亡、かよ・・・)
 情けない。明日の新聞の見出しを想像したところでボリスの意識は遠のいていった。
 
 「ん、ん~っ」
 ボリスは意識を取り戻した。辺りを見回すと、どうやら建物の中、それも地下らしい。そういえばニオン森でルーパンに笑われて、バナナを投げつけられたんだっけ。
 「ここはどこだろう。何でここにいるんだろう・・・」
 ボリスは状況を確認しながら起きあがった。めまいを感じてバランスを崩したが、すぐに体勢を立て直す。
 
 顔を上げたボリスの目にボクシングのリングと、その中空で天井の梁に逆さ向きに立っている一人の男が映った。
 「どうやら気がついたみたいだね。」
 「うわっ、えっ、あの・・・」
 逆さの男はボリスが意識を取り戻したことを確認すると安堵の表情を浮かべたが、ボリスは見慣れない体勢で話しかけてくる男に当惑している。
 
 「これは失礼。驚かせて済まなかった。私はダークロード。盗賊の元締めをしている。」
 男の自己紹介を聞いて、ボリスの表情に見る見るうちに喜びと緊張が浮かぶ。
 「こちらこそ失礼しました。私はボリスといいます。助けて頂いて有難うございます。」
 「礼には及ばない。それに、ルーパンにやられた君をここまで運んだのは、私ではない。ゲームマスターだ。」
 ゲームマスターとは、この世界を管理・運営する、いわば政府みたいな存在である。冒険者の間では、略してGMと呼ばれていて、行き倒れた冒険者を最寄の町まで運ぶのも彼らの仕事のひとつである。
 
 (早速GMのお世話になってしまったということか。情けない。でも、結果的にカニングにたどり着いたから、今回は差し引きゼロということで。でも二度とこんな無様な真似はしないぞ。)
 ボリスは2秒で反省を済ませると、改めてダークロードに向かい合った。ダークロードもボリスの心中を察したのか、柔らかい表情が一転、真剣なものに変わる。
 「ダークロード先生!僕は盗賊になりたくてここに来ました。どうか弟子にしてください!お願いします!」
 ボリスは直角に体を折ってダークロードに懇願した。
 「そう固くならんでくれ。いま君のステータスを見てみよう。ふむふむ・・・」
 ダークロードは弟子入り志願の青年に気さくに話しかけると、彼の脈を取るようなしぐさをした。何かを調べているようだ。
 
 「よし、問題ないな。」
 ダークロードはそう呟きながら大きく頷いた。結論が出たようだ。
 「DEX25以上の条件はクリアしている。君は今から盗賊だ。」
 「有難うございます。師匠と先輩たちの名を汚さぬよう、精進してまいります。どうかよろしくお願いします。」
 ボリスは小躍りして喜ぶと、逆さ向きの師匠に再度深々と頭を下げた。
 (これであの人に少しだけ近づいた。よし、がんばってレベルを上げるぞ!)
 バナナで受けた痛みも忘れ、ボリスは新たな決意を固めるのであった。
 
 
 
August 03

ボリス in maple 第2話

 決戦―そして懲罰?あるいは再教育? 
 
 バルネリ固定パーティーの面々は、闘争心むき出しでジャクムの祭壇に到着した。
 「戦闘用ヘルメット、着用!」
 バルネリがそう指示すると、パーティー員は全員、ウサギの耳がついている白いヘルメットを着用した。ストンプラビット帽に改造を施して作られた物である。
 しかし、リュフトは、他のメンバーとは違う赤いウサミミヘルメットを着用した。それは、ストンプラビット帽と言うよりはむしろ、サ●●オの人気キャラ「マ●メロ●●」帽と言った方が適切な外見であった。
 
 「リュフトさん、このヘルメット、どうしたの?」
 
 ボリスは不思議そうにリュフトに尋ねた。
 
 「自分専用の赤色の装備品を身につけると、通常の3倍の能力を発揮できるって言い伝えがあるだろ?あれにあやかったんだよ。今日は決戦の日だからな。」
 
 それは言い伝えと言うよりは勝手な思い込みですよ、少佐。
 自信満々のリュフトを見て、そうツッコミを入れたくなったボリスであったが、気分屋のリュフトの機嫌を損ねる必要もないので、何も言わないことにした。
 
 (専用・・・それは軍人のステータス!)
 リュフトはボリスとは対照的に、ホクホク顔でこの日のために用意した赤いウサミミをかぶりながら悦に入っていた。
 
 
 「戦闘開始!」
 
 バルネリが合図と同時に、ジャクム召還用の供物「火の目」を祭壇に捧げた。皆の意識が戦闘モードに切り替わる。しばらくすると、禍々しい光とともにジャクムが姿を現した。
 軍神が取り付いたかのようにパーティーは猛然とジャクムに襲い掛かった。8本の腕を難なく落とし、問題の本体戦に入る。
 ジャクムは時折持っている石版を地面に叩きつけながら、攻撃の隙をうかがっている。
 猛然とジャクムに攻撃を加えているパーティー。その不意を付き、ジャクムが石版からサクラの花びらのような形の光を放った。
 
 「火柱来るぞ!」
 
 ボリスが警告した直後、天井から身長の何倍もある火柱が降ってきた。
 
  ボリスは火柱が落ちるタイミングにあわせて、斬り賊のスキル、ブーメランステップをジャクムに打ち込む。このスキルは発動している間、敵からの攻撃を受けない。ボリスの意図はこの性質を利用して攻撃しながら火柱をかわすことであるが、ボリスは意図したとおりの絶妙なタイミングで火柱をかわしていく。
 
 「こっちですわ!」
 
 ステラも火柱の落ちる軌道を見切り、無駄のない的確な動きで次々とかわしていく。
 
 「今のうちに回復だ。」
 
 火柱をよけきれずに身動きが取れなくなっているラークは、顔色ひとつ変えずにチューチューアイスを頬張っている。
 
 「こんなのへでもない。」
 
 ラークはそう言い捨てて食べ終えたアイスの空容器を放り投げると、悠然と手裏剣投げを再開した。
 特訓は大成功であった。
 
 火柱だけでなく、HP1MP1攻撃、落雷攻撃、スキル封印攻撃にも動揺を見せることなく、パーティー員は効率良くジャクムを消耗させ、勇猛果敢に戦いを進めていったのである。
 
 (いける!)
 (勝ちが見えた!)
 パーティーの誰もがそう確信した。しかし、ジャクムが最後の抵抗を試みる。ジャクムの石版から黒い目のような影が放たれると、 褐色のモンスターと青白いモンスターが大量に湧出し、浮遊しながら斜め上方に飛び上がっていく。
 
 「来たぞ、ボリス!」
 
 「よし!リュフトさん、行くよ!」
 
 ボリスとリュフトは足場を登り、雑魚を殲滅にかかる。二人の姿を隠していたモンスターたちはあっという間に倒され、後にはボリスとリュフトの姿だけが残った。
 
 「早く倒れろーっ!」
 「しぶといやつね!」
 「根性見せますわよ!」
 
 一方、魔法使いと遠距離攻撃組は、ジャクム本体に最後のとどめを刺そうと渾身の力で攻撃している。
 
 そして―
 
 ジャクムの姿が消えた。と同時に何かのアイテムが数種類、空中に現れ、ばら撒かれるようにして落ちてくる。
 
 「勝った・・・・・・」
 
 「やった!ジャクムを倒した!」
 
 「ついに倒しましたわ!」
 
 「うぉ~~~~~っ!」
 
 勝利の雄たけびを上げ、皆討伐の喜びを体で表現した。
 
 「おっと、戦利品を確認しないと。」
 
 バルネリが我にかえって地面に目を移し、ジャクムのドロップ品を回収にかかる。マスタリーブック、装備品、回復薬を拾い終え、スキルブックを確認した。
 
 「ラークさん、トリプルスローのスキルブックが出ています。早く拾って。」
 バルネリに促され、ラークは満面の笑みで、スキルブックを拾った。感激のあまり言葉が出ない。
 
 「僕もエンジェルレイを習得できました。皆さん有難うございます。」
 バルネリはラークの手を取りながらメンバー全員に感謝した。
 
 「ばんさ~い!ばんざ~い!ばんざ~い!」
 「スキルゲットおめでとう!」
 「バルネリ固定パーティーに栄光あれーっ!」
 
 歓喜の声がいつまでも祭壇に響き渡っていた。
 
 
 「それでは~っ、ジャクム初討伐を祝して、かんぱーい!」
 
 「かんぱーい!」
 
 あやめの音頭にあわせて、パーティー全員とチャーリー軍曹は持っているグラスを重ね、中身を一気にあおった。
 ここはエルナスのとある酒場。反省会およびマスタリーブックと装備品の分配を終えて、祝勝会の最中である。
 
 「今日はとことん飲むぞーっ!大将!焼酎もう1本お願い!あと、いかめし2人前も!」
 あっという間にあやめが焼酎のびんを空け、店主に追加の注文をする。
 
 ウーゴ、リュフト、チャーリーの3人は、吟醸酒の入った樽の傍らに座り込み、ひしゃくですくった酒を回し飲みしてだみ声を上げている。そのすぐ横でラークはジョッキ片手に顔を真っ赤にしてにやけている。
 
 ボリスは冷凍庫から出されたばかりのトロトロのウォッカをちびりちびりと楽しみ、 そしてバルネリとステラは、そんな仲間たちに温かい視線を送りながらお酌をして周り、自らはオレンジジュースを楽しんでいた。
 
 「ささっ、チャーリー軍曹、もっとお飲みになってください。」
 「うむ」
 チャーリーは照れくさそうに枡を差し出すと、ステラは樽からひしゃくで酒をすくってチャーリーの枡に注いでいった。
 
 「今日の討伐は見事であった。良くぞ私の訓練に耐え抜いた。君たちは私の誇りだ!」
 「そんな大げさな・・・。でも、おかげで討伐ができました。あなたは私達を変えてくれました。感謝していますわ。」
 チャーリーとステラが、スポコン青春ドラマのクライマックスシーンのようなセリフを並べてお互いを称え合っている。
 
 そんな会話のなかに、店のテレビからサッカー中継の映像と音声が割り込んできた。見ると、玉ちゃんが相手ディフェンダーに倒されたもののファールを取ってもらえず、ゴールチャンスも逃してふくれているシーンであった。
 
 
 「ふん、所詮ゴールを決めなければただのナメクジ、粗●●で早●の●●持ち野郎だ。」
 
 
 チャーリーは何の気無しにそう吐き捨てると、テレビから視線をはずしてつまみのエイひれをかじった。
 しかし、チャーリーの言葉は、ステラのトラウマと怒りのスイッチをONにした。見る見るうちにステラの顔から柔和さが消え、身の毛もよだつ禍々しいオーラをまとっていく。
 
 「そうそう、わたくし思い出しましたわ。部下へのセクハラ発言で懲罰が必要な訓練官がおりましたわね?」
 「ん?けしからんな、どこのどいつだ。」
 「御自覚が無いのですか?―あなたの事です、この下ネタ軍曹!」
 
 ステラは氷の魔法、コールドビームでチャーリーの動きを封じるとすぐさま彼を縄で縛り上げ、酒場の梁(はり)に吊るすと、チャーリーの背中に大量のデンデンを放り込んだ。
 
 「何をする!こんなことをしてただで済むと思っているのか!うわ、体がぬるぬるして、気持ち悪い!」
 「あら、ではあなたが軍に内緒でチャリクエで大儲けしていることを密告してもいいのですね?」
 「それはまずい!いや待て、話し合おう、お互い歩み寄りの余地はあるはずだ.。」
 「ふふ~ん、やはりあのクエストは軍に知られるとまずいのですね。これはいいことを聞きました。」
 
 しまった! ステラの誘導尋問にあっけなく引っかかり、チャーリーは一気に窮地に立たされた。
 
 「クエストの利益を1割、いや、2割お前にやろう。これで満足か?」
 「あら、わたくしそんなものに興味はありませんわ。それよりあなたには、玉ちゃんの素晴らしさをたっぷりと教え込まないといけないですわね。」
 
 うろたえるチャーリーの妥協案を一蹴すると、ステラは赤い鞭を取り出し、妖艶に含み笑いをしながら毒蛇のように鞭をしならせ、床を叩いた。 
 
 「ビシッ!バシッ!」
 乾いた鞭の音が辺りに響き渡る。 
 
 「暴力反対!」
 
 「問答無用ですわ!このブタ野郎!ナメクジ!!!」
 
 こうしてチャーリー軍曹への懲罰(?)あるいは再教育(?)がステラの手によって開始された。
 
 
 「ウーゴ、ステラさんと軍曹、何か楽しそうですね。」
 「ああ、新しい宴会芸じゃないかな。リュフト、俺らも見物しよう。」
 
 ウーゴとリュフトは吊るされた軍曹と彼を打ち据えるステラに気づくと、指笛と拍手を送り場をあおった。
 
 「大将!焼酎もう1本追加お願い!」
 
 あやめの傍らには焼酎の空き瓶が3本転がっている。
 
 ウーゴとリュフトの喚声を聞きつけて、店の内からも外からも次々と人が集まってきた。
 
 「ラークさん、ギャラリーがたくさん集まってきたので、1人1万メルずつ見物料取りましょうか?」
 「ボリスさん、それいいですよ。ジャクム討伐の赤字補填の足しにしましょう。は~い!並んで並んで!タダ見はダメですよ!1万メル払ってからにしてくださいね!」
 
 酒の勢いに任せて悪ノリするパーティーメンバーの宴は、夜が更けるまで続いたのであった。
 
(第3話へ続く) 
 
 
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